奇跡と軌跡 <前編>

6 ページ7

健人side

電車に揺られながら、台本を読む。


夕日が沈まないうちに、この台本を読み終えなくては。









台本を片手に、今日の出来事を思い出す。




マリウスが撮影中に壊れたこと。






勝利のツッコミが絶えなかったこと。







聡ちゃんの笑顔がたくさん見れたこと。







菊池がみんなに温かいコーヒーを奢ってくれたこと。









(平和だなぁ．．．)









しみじみと思い出を噛み締めながら、ゆらりゆらりと電車が揺れる。









山の向こうに吸い込まれていくように沈む夕日も。









にぎやかな光を放ち続けている東京の街並みも。









この世のものすべてが、見慣れた風景のはずなのに、なぜか新鮮で、愛おしくて。









(こんな日々が一生続けばいいのに)









そう心から願った。









・









・









そう思っていると、






あまりにも、その夕日が気持ち良かったからなのだろうか。









それとも、疲れのせいなのか。









だんだんウトウトし始めて、









ゆっくりと目をつぶり、









俺は眠りについてしまった。









・









・





__






『次は〜終点』





案内ガイダンスの音で、目を覚ます。









ふと表示を見ると、俺が下りるはずだった駅はとっくに通過していた。






(ヤバ！乗り過ごした！)









夕日はもうとっくに沈んでいて、辺りは真っ暗だった。









(でも、この終点の駅、家までそんなに遠くないから、歩いて行こうかな)









そう思い、一旦気を落ち着かせ、立ち上がる。









電車のドアが開き、俺は早歩きで改札を目指した。









そう、この行動こそが、俺たちの運命を狂わせた、最大の要因。




＊

7→←5

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す