狐の威嚇 6 ページ6
「あ、ウォヌくん。お花屋さん寄ってもいい?」
「ん?あぁ」
階段を降りて駅内に入ると、構内にある花屋を見てAが立ち止まる。
色とりどりの花々が店先に置かれ、その美しさは通り過ぎる人々の目を奪っていた。
「リビングに飾るお花が欲しくて」
「うん、いいよ」
Aに手を引かれ狭い店内に入ると、そこら中に花が入ったバケツが敷き詰められていた。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか」
「えと具体的には…」
「ケースご覧になりますか?」
「あ、行ってきてもいい?」
店員さんと話していたAが俺の方を振り向き聞いてきた。恐らくこの狭い店内を2人で歩くのは、店員さんの邪魔になってしまうだろう。手を離したくはなかったけど仕方ないか。
「うん、ゆっくり見といで」
「ありがとう」
Aからコーヒーの入った紙袋を受け取り、名残惜しく手を離す。
店の隅に移動して店員さんと楽しそうに話すAをじっと見つめていると、もう1人の店員さんが静かに近付いてきて
「奥様、とても可愛らしいですね」
「え、あ、どうも」
「お店に入ってきた時、モデルさんみたいでお似合いねって他の子と話していたんです」
お似合い……はたから見たらそんな風に見えてるんだ
嬉しさと照れで胸がソワソワする。
「妻にも言っておきます。ありがとうございます」
「んふふ、ごゆっくり」
店員さんにペコッと会釈をして、Aの帰りを待っていると
「ごめんね、素敵なお花が沢山あって迷っちゃった」
「ふふ、いいよ。気に入ったのは見つかった?」
「うん」
Aが抱えていたのは白い花のブーケだった。
「へぇ、なんかフルーツみたいな匂いする」
「カモミールだよ。癒しの効果もあるの」
「……Aみたいだね」
「そう?」
うん、白くて小さくて、良い匂い……美味しそうで
「……A、帰ろ。早く」
「え、う、うん」
花屋の店員さんに挨拶をして、Aの手を引き駅のホームへ急ぐ。
「ウォヌくん」
「ん?」
「何か、見たいものでもあるの?」
「え、何で?」
「急いで帰ろうとしてたから」
「あー……」
チラッと辺りを見渡せば、まだ人はそこまで居ない。Aを引き寄せ壁と自分で挟み周りから見えないようにする。
「ウォヌ、く…ん」
自分のマスクをずらし、Aのマスクもずらすと、何か言われる前にそっと口付けをする。
この続き、早く帰ってしよ?
赤くなった耳にそう呟き、ちょうどホームにやってきた電車へ急いで乗った。
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作者名:NOAH | 作成日時:2024年3月13日 23時