狐の威嚇 5 ページ5
「本当に良かったの?」
「ん?何が?」
紙袋ともう片方の手でAと手を繋ぎながら本屋を後にする。外はすっかり陽が傾き始め、Aが着けていた俺が贈ったピアスがキラキラと反射していた。
「本…」
「あぁ、いいんだよ」
本当にお詫びのシルシだったし、本音を言ってしまえばこの本を読む時に俺を思い出して欲しいかなって独占欲。
ここまで自分の欲が働いてしまっている事に内心苦笑いをしながら、Aに優しく微笑む。
「その代わり、沢山読んでね」
「あ、うん!沢山読むね」
Aはこくこくと一生懸命首を頷かせていた。
「この後どうしようか。何処かカフェでも入る?」
「あー、それなんだけど……コーヒーをテイクアウトして、家で飲むのはどう?」
散々ここら辺のカフェを探したが余りピンと来ず、なら家で待ったりする方が良い気がした。
「そうだね!その方がゆっくり本も読めるしね」
「うん」
まぁ、本当は早くAと2人きりになりたいだけだけど
一番近くの韓国なら何処にでもある様なチェーンコーヒー店に入ると、コーヒーの良い香りと緑のエプロンを着けた店員さんが出迎えてくれる。
「ウォヌくん、ここは私が出すね」
「え、いいよ」
「んーん、本勝って貰ったお礼。何飲みたい?」
それじゃあ、本を買ってあげた意味無くなるけど、Aの好意も無駄にしたくなかったのでお言葉に甘える事にした。
「じゃあ、アメリカーノ」
「分かった。アイスだよね?待っててね」
「ん」
可愛くて優しいとか、女神かな
なんて思いながら、レジに向かうAをぼんやり眺める。
小腹が空いている事を伝えれば良かったなと少し後悔して待っていると
「お待たせ」
「ん。他に何か買ったの?」
「チョコレートが付いてるスコーンと、マフィン。あと、ウォヌくんの好きなサンドイッチもあったからそれにしたよ」
「ありがとう」
やっぱり女神かもしれない
「持とうか?」
「あ、んー。大丈夫」
「そう?こっちの手、空いてるけど」
「んと、ウォヌくんと手繋ぎたいから、私持つ、ね」
Aはそう呟いた後、頬と耳をほんのり赤くさせた。
「…………」
あっぶね。ここでキスしそうになった
理性が働いて良かった。とりあえず誤魔化す様に頭の中で素数を数える。
「ウォヌくん?」
「んーん、何でもないよ。行こうか」
手を差し出せば、Aは嬉しそうに手を繋いで来た。
早く帰りたいな……
そう思いながら店を出て、駅までの並木道を歩き出す。
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作者名:NOAH | 作成日時:2024年3月13日 23時