狐の威嚇 3 ページ3
直ぐにスマホをしまい様子を伺いながら近づくが、Aの表情や態度的に明らかに知り合いでもなければ、道を聞いている訳でもなさそうだ。
そもそもAに男の知り合いなんて居ないし、それに……
居たとしても俺が知らない訳ないしな
本当にただ道を聞かれているだけならいいがと近づいていくと、突然その男がAの腕を掴んだ。
あいつっ！
ぶわっと頭に血が上る感覚を覚えながら、ほぼ走る勢いで男にわざとぶつかる。
「すみません、俺の妻に何か」
うわ、凄い。ドラマに出てくる様な台詞
なんて、頭の中の冷静になっている所でそう思いながら、Aの腕を掴んでいる男の腕を掴み上げる。
「あ”？ンだよ」
男は強気で来たので、こちらも圧をかける様に無言で睨みつけ見下ろすと
「あっ、…ぐっ」
一瞬怯んだ隙にAの腕から手を払わせ、隠す様にAを背中側に庇う。
「まだ、何か？」
「ちっ……」
男は苦虫を噛み潰したような顔をして、何処かへ走り去って行った。
ビビるくらいならイキるなよ
心の中で悪態を吐き、後ろを振り向く。
「ヌナ、大丈夫？」
一応外ではあるので本名で呼ぶのは控えた。
「あ、うん、大丈夫」
「ごめん、来るの遅れて」
Aの腕をとり、先程男が握っていた所のセーターとコートを捲る。
現れた細くて真っ白な腕を見るが、特に傷や痕にはなっていなさそうだ。はぁ、と安堵の溜息をつきながら腕を撫でた。
良かった、何もなくて。これでもし痕でも残ってたら……
想像しただけでまた怒りが湧いてきそうだ。
「人目が多い所に居てって言ったよね」
「あ、えと、でもここも人目あるよ？」
「多くは無いでしょ」
まさかナンパされるとはな
きつく言ってしまったが、Aが怖い思いをしたのは間違いないので袖を元に戻して頭を撫でる。
「本当に大丈夫？痛くない？」
「うん、ありがとう」
「ん。それより、何見てたの？」
「あ、これ」
Aが指さすポスターを見れば、白字で大きく《印象派展》と書かれ、その背景には誰もが1度は見た事ありそうな蓮が浮かんだ湖が描かれた絵画が印刷されていた。
「あぁ、展示会？」
「うん、いいなぁって思って」
「……今度行く？」
日付を確認すれば開催期間中は活動はまだそこまで忙しくなさそうだ。
俺の提案にAは目をキラキラさせて
「うん、行きたい」
「はは、とりあえず今日は本屋さんね」
そう言いながらAと手を繋ぎ、8番と書かれた出口に向かって歩き出した。
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作者名：NOAH | 作成日時：2024年3月13日 23時
