検索窓
今日:4 hit、昨日:7 hit、合計:215,482 hit

30*.手の鳴る方へ zmem【3】 ページ42

emside

「期待なんて、無駄やのに…。」

「何が?」

「だから私が……って、え……?」

声のした方に視線を遣ると、ゾムさんがいつの間にか私の隣に座っていた。

「ゾムさん、いつから居はったんですか……?」

「ん?さっきダクトから来たけど…エミさん全然気付かへんねんもん。」

そう言って少しむくれるような表情をするゾムさん。
そんな表情にすら可愛いな、と少し胸が疼くのだから、もう立派に重症だった。

「すみません、少し考え事をしていて…。」

するとゾムさんは、ふい、と顔を上げてにぱっ、といつもの笑顔で。

「…まあええや。エミさん、かまってぇや!」

ずくん、と大きく反応する心臓。
いつの間にこんなにも好きになっていたんだろう。
不思議なくらいに彼のことが愛おしくて仕方がなかった。

「…昨日、書籍の買い足しに行ったついでにケーキを買ってきたんです。そんなに甘くないものを選んだつもりなので、紅茶でも淹れて頂きましょう。」

私がそう言って精一杯、頬の赤みを隠すように微笑むと、ゾムさんは少し目を見開いて。

「……まじか、やったぜ。」

きっとそろそろ来てくれるだろうと思って淹れておいた紅茶をカップに注ぎ、箱からビターのチョコレートのケーキを取り出して。
こんな他愛のない時間の中にもちくちくと胸を刺す痛みが入り込んでいた。
煩わしいな、と思いながらケーキを食べていると、ふいにゾムさんが私の方に身を乗り出して。

「……エミさん。」

小さく彼が私の名前を呼んで、口の端をぺろり、と舌でなぞられる感覚。

「……っへ……ぁ………?」

驚きで間抜けな声しか出なかった。
離れていくゾムさんの顔には、どことなく憂いのようなものを感じたような…。
けれど次の瞬間には、にっ、と笑って。

「クリーム、付いとったで?」

少し期待してしまった自分がいたなんて、自分の浅ましさがほとほと嫌になった。
そして気が付いた。
今日はまだ何も、悪戯をされていないことに。

「……今のは、今日の悪戯ですか?」

そう訊くと、ゾムさんは驚いたように少し目を見開いた。

「…なんで、そう思うん?」

「……いつも…いつも、不思議だったんです。何でゾムさんは私に悪戯をしに来はるんやろ、って。」

何でなんですか。と目で訊ねると、ゾムさんは少し考えるような仕草をした。
一秒、二秒。
何か言いあぐねるように視線をふらふらと彷徨わせている。
けれど、決心がついたかのように私の目を真っ直ぐに見つめて。

30*.手の鳴る方へ zmem【4】→←30*.手の鳴る方へ zmem【2】



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (160 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
208人がお気に入り
設定タグ:実況者BL , wrwrd!腐 , wrwrd!   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

るある。 - ラッピングしてお返しするところ、、、尊い‼️ (5月12日 1時) (レス) @page37 id: daaa2cbdca (このIDを非表示/違反報告)
るある。 - 最高です(・・)マガオ (5月12日 1時) (レス) @page33 id: daaa2cbdca (このIDを非表示/違反報告)
レマ - ありがとうございます 尊いです (2023年4月16日 16時) (レス) @page34 id: a92f5b28bf (このIDを非表示/違反報告)
Labo(プロフ) - 電球ソーダさん» 返信、遅れてしまってすみません!尊いは最大の褒め言葉です…!ありがとうございます…!! (2022年5月24日 5時) (レス) id: 34b51c2cbe (このIDを非表示/違反報告)
電球ソーダ - 尊い (2021年7月3日 3時) (レス) id: 9b3bfa43e1 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:Labo | 作成日時:2020年4月21日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。