- ページ21
｢…寝ちゃったね〜｣
シー、と口に人差し指を当てながら小声で話す八木ちゃん。
その視線の先には、いつの間にか寝てしまっていたらしいあの子の姿があった。
｢初めてのライブで疲れちゃったのかな｣
｢結構飲んでたしね〜｣
｢でもどうする？｣
｢どうするって何が｣
｢いや、このままにしとくわけに行かないだろ。八木氏、Aちゃんの家知ってる？｣
｢…知らないっす｣
目の前でそんな会話を繰り広げられているのを、俺は他人事のように見ていた。
まさか自分に矛先が向くだなんて思いもしなかったから。
｢そういえば義勝、この前Aちゃん送ってたのお前だよな？｣
｢えっ、｣
｢お前Aちゃんの家知ってるだろ｣
｢いや、まあ、そうだけど…｣
これはもしや、俺がまた送っていく流れなのか？
嫌な予感は見事的中。
｢んじゃ、Aちゃんは任せたわ｣
｢は、ちょっと、まっ…｣
巨匠が俺の肩を割と強めに叩く。
面倒事はいつも俺に降り掛かってくるのは気の所為だろうか。
あの子のことに関しては、特に。
小さくため息をついてから、分かったよ、と返事をする。
｢…ちょっと待ってよ｣
八木ちゃんが不服そうな表情で口を開いた。
｢よっちゃん、またAちゃん泣かせたりしない？｣
｢…しねーよ｣
｢心配…なんだけど…｣
(その目は、心配、って目じゃないな)
他の感情諸々が複雑に混じりあったような、そんな目だった。
こんな八木ちゃんは初めてだったから、俺も皆も、驚いたような顔をしていたと思う。
｢なんもしねーよ、ほんとに｣
｢あっそ…ならいいけど…｣
不満げな瞳を俺から逸らして、グラスに残っていたアルコールを飲み干した。
そんなこんなで打ち上げもお開きになって、
あの子の送迎係と化した俺は、高い体温の彼女を背負ってタクシーに運び込んだ。
ほんのりとアルコールの匂いを漂わせたあの子は、俺の肩に身体を預けてすやすやと眠っている。
俺もなんだかんだ酔っていたみたいで、万が一にでも変な気を起こすまいと、窓の外の景色に意識を集中させた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 70人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ねまき(プロフ) - はるさん» 最初から読み直していただけるなんて！！ご愛読ありがとうございます。更新がまばらではありますが、これからも応援どうぞよろしくお願いします！ (2019年10月7日 9時) (
レス) id: 931eecc95f (このIDを非表示/違反報告)
はる - 最近更新してくださっていたので最初から読み返していました！展開が気になります〜。更新頑張って下さい。楽しみにしてます！！！ (2019年10月7日 1時) (レス) id: bc458fa271 (このIDを非表示/違反報告)
雅樂(プロフ) - neko inuさん» コメントありがとうございます！最近更新がまばらでごめんなさい！待っててもらえてるなんて、とても嬉しいです◎これからもがんばりますのでよろしくお願いします！ (2019年7月27日 21時) (レス) id: 931eecc95f (このIDを非表示/違反報告)
neko inu(プロフ) - 更新楽しみに待ってました！とっても嬉しいです(；；)！続きも、短編の方もこれからも楽しみに待っています！頑張ってください！ (2019年7月26日 23時) (レス) id: e06fed49e6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ねまき | 作成日時：2019年6月19日 23時
