ゼロからはじまるストーリー

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「お帰りなさい」

その夜、22時をまわった頃に音羽さんは帰って来た。
彼は返事の代わりにぺこりと頭を下げた。そのことについては段々と慣れ、もはやショックも受けなくなっている。

「着替えたらで良いのですが、1つご相談したいことが」

「今すぐにで構いません。どうぞ」

音羽さんはリビングのダイニングテーブルにある椅子に座るよう促した。

「え、でも、お疲れでしょうし……」

「大丈夫です。続けてください」

「じゃあ、遠慮なく。今、この家にはダブルベッドしかなく、音羽さんはソファでおやすみになっていますよね」

音羽さんは何の話だ？という顔をしながら、「ええ」とゆっくり頷いた。

「私としましては、音羽さんにソファで寝ていただくのは申し訳なく思うのです。なので、良ければ、一緒のベッドで寝ませんか、というご提案なのですが」

すると音羽さんは、頭に疑問符が浮かんでいるような顔をした。

「貴女に利点がないような気がしますが」

「利点……は確かにないですけど、そういう視点で考えてなかったです」

私がそういうと彼は信じられないといった顔をした。

「もちろん強制するつもりはありません、嫌なら結構ですし、ずっとそうしろってわけでもなくて、ベットを買うまでの間、一時的にこうしたらどうかなと」

「好きでもない男と同じベッドで寝るなんて出来るんですか」

ちょっと嫌な言い方だけど、まあ良い。目を瞑ろう。

「私は音羽さんのこと嫌いじゃないですよ、大丈夫です」




そんなことを言った次の日の朝、目が覚めると目の前に音羽さんの顔があって、思わず叫んでしまったのはここだけの話である。

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