ゼロからはじまるストーリー

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「彼らの使命はただ1つ。それは“死者を1人も出さないこと”」

赤塚知事がそう宣言すると、会場でも、またこちら側でもどよめきが起こっていた。なんなら、そのMERメンバーも戸惑った表情を浮かべている。

それを聞いた部長は「また大きく出たねえ」と、苦笑しながら言った。

「そんなに腕のある医師が担当するんですか？」

「Aちゃん資料読んでないの？」

ふと疑問に感じたことを前にいた先輩に聞くと、先輩は少し驚いた顔をした。

「ごめんなさい、別の仕事で忙しくて……」

忙しい職員もいるだろうと2週間ほど前から配られていたのは知っているし、何度か読もうとはしていたのだけど、仕事でもプライベートの方でも色々ありすぎて、資料を読む余裕なんてなかったのだ。
……でもせめて、昨日の夜読むべきだった。今更遅いけれど。

「なるほどね、この喜多見って人、医師としての詳しい経歴がなくて、実力があるのかどうかわからないんだよ。それに1人研修医だし」

「そうなんですか」

そんなチームで本当に死者ゼロなんて可能なのだろうか。そもそもどんなに腕の良い医師がいたって無理難題だと思うけれども。
そんなことを思っていると、警報音のようなものが鳴り、さっそくMERの出動要請が入った。

「しくじるなよ、MER」

そう言った部長は厳しい目を向けていた。

死者ゼロ、もちろん出来ることならそれこそ夢のような医療チーム、医療機関であることに間違いない。でもそれは理想論であって、現実はそう甘くないのではないか。
部外者である私の心配を他所に、テレビの向こうのERカーは事故現場へ走り去っていった。

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