ゼロからはじまるストーリー

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「あ」

夜、帰宅すると音羽さんもつい先ほど帰って来たのか、ちょうどドアを開けたところに鉢合わせた。

「お帰りなさい、もう夕食は済ませて来ちゃいましたか？」

「いえ」

「良かった、今から作りますね」

そう言うと、音羽さんは少し不思議な顔をしていたけれど、「ありがとうございます」と言った。

「アレルギーとか好き嫌いはありますか？」

「特には」

「了解しました」

作ると言ったのにこんなことを言うのは違うけれど、正直断られると思っていたので何を作るか決めていなかった。
もちろん何を出したとしても音羽さんが文句を言うことはないと思うけれど、せっかく料理を振る舞うのだから美味しいものを食べてほしい。

色々と考えた結果、自分が1番好きで、作るのが得意なオムライスを作ることにした。

ご飯を作りながら横目で音羽さんを見てみると、どうやら本を読んでいるみたい。これも仕事の一環なのだろうか。

「できました」

「ありがとうございます。いただきます」

さすが官僚と言うべきか、食べる所作がとても綺麗で、思わず見惚れてしまうほどだった。

「どうかされましたか」

ふと視線をあげた音羽さんが少し怪訝そうに言った。

「あっ、いいえ、なんでもないです」

視線を感じてしまうほどじっと見つめてしまっていたようで、慌てて目を逸らした。

「とても美味しかったです」

「それは良かったです。お皿洗っちゃいますね」

音羽さんのお皿に手を伸ばすと、私が手に取るより先に彼がお皿を持った。

「私が片付けます。Aさんは休んでいてください」

「大丈夫ですよ、すぐに終わりますし」

「借りができた状態のままにしたくないので」

音羽さんからどうしても、という雰囲気を感じたのでそのままお願いしたけれど、別に料理を振る舞ったのは貸し借り云々の話じゃないんだけどな、と思わず苦笑した。

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