ゼロからはじまるストーリー

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「ねえ、高尾さんって結婚したの？」

廊下を歩いていると、向かい側から来た赤塚知事にそう話しかけられた。

「はい。あの、失礼ですが、どうしてご存知なのですか？」

知事に報告はしていないし(というよりこんな個人的なことを報告できるようなような間柄じゃない)、結婚指輪だってしていないのにどうしてわかったんだろう。

「報告書の名字が変わってたから。音羽さん……になったのね？」

「はい。まだ自分でもその名字には違和感がありますけど」

自分が音羽Aです、なんて今まで名乗ったことがないので、音羽と言えば尚さんのイメージしかない。
いまだに自分でも高尾と名乗った方がしっくりくる。

「言うのが遅くなっちゃったけど、結婚おめでとう」

「ありがとうございます」

赤塚知事はじゃあね、と手を振って向こうへ歩いて行った。
もちろん、仕事上何回か顔は合わせているけれど、それでもこんな下っ端の人間の名前まで覚えていて、気にかけてくださるなんて。とっても優しくて凄い人だと思う。
そんな人のもとで働けて良かったな、と人並みに思ったりして、午後は少しだけ機嫌が良かった。


＊＊＊


報告書に記名された音羽Aという文字を見て息を呑んだ。
確かこの子は高尾という名字だったはず、と思い過去の報告書を見ると、そこには確かに高尾と書かれていた。
もしかして、結婚したのかしら？なんて思っていたその日のお昼、ちょうど彼女に会ったので質問してみた。

「まだ自分でもその名字には違和感がありますけど」

と言って微笑む彼女にお祝いの挨拶をして別れた。
音羽、といえばこの後始動するTOKYO MERのメンバーに入っていた音羽尚と同じ名字だけれど、

「まさかね」

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