ゼロからはじまるストーリー

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「MERの喜多見幸太について、何かご存知のことはありませんか」

喜多見さんについて私が知っていること？ そんなものない。ないというのは言い過ぎかもしれないけど、絶対に一端の職員よりも尚さんの方が詳しいのは確かだ。

「何かって……具体的にはなんでしょう？」
「たとえば、空白の1年について……とか」

久我山さんは真剣な眼差しで私を見た。空白の1年がそれを指しているのか、正確にはわからないけど、おそらく資料にあった履歴のところで、1年だけ、何もしていない年があったのを覚えている。多分それのことだろう。

もちろん、些細な情報ですら知らない私が、空白の1年のことについてなんて知っているわけないのだけど、でも、何もないと言ったら尚さんはどうなるんだ。

「その、なにか言えれば良かったんですけど……私がお教えすることは何も……」
「……そうですか。すみません、いきなりお声がけして」
「いえ、それは、全然。あ、でも……」

こんな問題に彼女を巻き込んで良いのか、とても迷った。だって尚さんが厚生労働省を辞めて困ることなんて、少なくとも彼女にはない。
それに、喜多見さんの空白の1年は、なにか人に話せないようなことがあるのではないかとも思う。きっと彼女は優しいから、尚さんが厚生労働省を辞めると聞いたら、それを助けられると聞いたら、話してくれるような気がする。

でも、だからって……

「でも、なんでしょう？」
「あ、ええっと、その……」

どうしよう、言うべきか言わないべきか、いろんな考えが一瞬のうちに浮かんでは消えてを繰り返した。

「……喜多見涼香さんなら、喜多見さんの妹なんですけど、ご存知かもしれないです」

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