ゼロからはじまるストーリー

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最近、尚さんの帰りが遅い。
いや、前から日付けが変わる前に帰ってくる方が珍しいくらいではあったのだけど、それでも一応顔を合わせることくらいは出来た。

最近は彼の顔すら見れないことが続いている。


帰ってきていた形跡があるときもあるけれど、どうやら私が寝ている時間に帰ってきて、そのまま出かけてしまうらしく、真相はわからない。
忙しいのだと思う。そりゃそうか。確か風の噂で、MERに関する最終審査会がもうすぐ開かれると聞いたし、尚さんがやらなきゃいけないことなんて、いっぱいあるのだろう。

忙しいといえば、最近赤塚知事の姿を見ない。

まあもともと頻繁に会える人ではないけど、ここのところずっと公務中であることが多く、都庁にはあまり顔を出していない。
赤塚知事もMERのことが気になるだろうに、大変だな。

「いや、他人の心配ばかりしてどうするの私」

かくいう私も忙しいのだから。
明日までに作らなきゃいけない書類、明後日までに判子を貰わなきゃいけない書類、引き続き……考えるだけで嫌になりそう。

尚さんは毎日こんな感じなのだろうか。いや、この程度の仕事ならさっさと終わらせちゃうかも。いつもそれ以上のことをしてるわけだし。

「……尚さん、会いたいな」

誰もいない部屋に向かってつぶやいたのとちょうど同時に、玄関のドアが開く音がした。

「ただいま……！？」
「尚さん！」

そんな挨拶と共にリビングのドアから顔を覗かせたのは、紛れもなく尚さんだった。
小声だったのと、そのとても驚いたような、少し怒っているような顔を見るに、私が起きているとは思わなかったんだと思う。


今気づいたけれど、尚さん、ただいまとか言うんだ。

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