ゼロからはじまるストーリー

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壁にかけられた時計を見ると、もうすぐ23時になるところだった。

自分から見といて言うのもなんだが、見るんじゃなかった。ここから帰って、お風呂に入って……と考えると寝るのは絶対に0時を超える。


今日の夕方、いざ帰ろうとしたところ、今日中に終わらせなければいけない仕事が出てきてしまって(それは私がすっかり忘れていたのが原因だが)、やむなく残業することになったのだ。

なんとか日が変わる前に終わって良かった。

尚さんには一応連絡したけれど、彼は彼で忙しいから見ているかどうかは謎。

……といっても、私が残業だのなんだのなんて、尚さん的にはどうでも良いことだと思うけど。


そんなことを考えながら外へ出ると、見覚えのある人が壁に寄りかかって立っているのを見つけた。

「……尚さん？どうしてこんなところに？」

近くに駆け寄ると、尚さんはどこか遠くへ向けていた視線を私の方へ向けた。

そして特に挨拶するわけでも、手を振るわけでもなく、淡々と私の質問に答えた。

「偶然近くにいたので。それに、1人で夜道を歩くのは危険ですから」

「待っててくれたんですか？」

「私も仕事をしていたので、先ほど着いたばかりです」

まさか尚さんがここに居るとは思わなかった。

それに、嘘か本当かどうかは別として、とにかく私が仕事を終わらせるのを待っていたという事実がただただ嬉しい。

「ありがとうございます。とっても嬉しいです」

私がお礼を言うと、尚さんは「いえ」と返した。

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