ゼロからはじまるストーリー

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「先ほどはすみませんでした」

家に帰ってきてすぐ、尚さんが私に謝ってきた

「何かありましたか？」

「病室での私の行動は不適切だったと思います」

「そうですか？」

先ほどの行動というのは、主にあの口を塞がれた行為のことを指しているのだろうか。

「いくら貴女が私に好意的な感情を抱いていたとしても、いきなりやって良いことではないかと」

「……突然の事だったので驚きはしましたけど、嫌ではなかったです、嬉しかったですよ」

尚さん的に今の回答は満足のいくものではなかったようで、「人目に晒してしまいました」と小さく言った。

「それは……確かに見られたくないお方でしたけど、尚さんのせいってことではないです。気にしないでください……そういえばあの時、何か言いかけていましたよね、なんて言おうとしてたんですか？」

私の問いかけに、尚さんはばつの悪そうな顔をした。

「その件に関しては忘れてください」

「……どうしても教えてもらえないですか？」

尚さんはしばらく考えた後、「私も、貴女と同じ気持ちだということを伝えたかっただけです」と言った。

「……それって、つまり」

尚さんの方を見ると、彼は相変わらずの無表情で、どことも言えない下のあたりを見つめていた。

はやる気持ちを抑えきれず、尚さんのもとに駆け寄ってぎゅっと抱きしめた。

「……Aさん？」

「突然すみません。でも、つい、嬉しくて……」

私の背中に尚さんの手が添えられた後、尚さんのつけている香水の香りが、さっきより強く私を包み込んだ。

「また別の機会に、ちゃんと伝えさせてください」

私は返事をする代わりに、さっきより少し強く彼を抱きしめた。

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