ゼロからはじまるストーリー

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「あれ、おかえり。思ったより早かったじゃない」

自分のデスクに戻ると先輩が驚いた顔で言った。

「途中でMERに出動要請が入って、そのままお開きです」

「……ああ、エレベーターに閉じ込められたってやつ？」

「それです。そんなに大したことないと思うんですけど、中に議員さんがいるから出動したんですかね？」

私がそんなことを言うと、先輩は「……それ今大変なことになってるよ？」と言った。

「大変なこと？」

「地下の機械室で火災が発生した影響で、エレベーター内に煙が充満して、妊婦さんが破水してる。」

先輩は危機管理対策室の様子が映されている画面をトントンと指差して言った。
それじゃあ、中にいる人たちだけじゃなくて、生まれてくる赤ちゃんまで危険な状況ではないか。

じっと画面を見つめて固まっている私に、先輩は「そんなに気になるんだったら、これ貸そうか？」と聞いてきた。

「いえ、大丈夫です、お気遣いなく」

「いや貸すよ。気になって集中できなそうだもん」

そう言って先輩が差し出してくれたタブレットをおずおずと受け取り、溜めていた書類に目を通した。

イヤホンから聞こえる音声では、白金大臣が、妊婦の方より天沼さんを先に助けるべきだと主張していた。

「音羽先生、貴方の判断に任せます」

妊婦さんか天沼さんか、喜多見さんはどちらを先に助けるかという判断を尚さんに任せた。
この選択はつまり、彼が医師か官僚かどちらを選ぶのかと聞かれているようなものだった。

やっぱり官僚なら、天沼さんを優先すべき、と言うのだろうか。

「…… 天沼先生の救助を後回しにしてください」

そんな尚さんの声が聞こえて、その後におそらく天沼さんであろう「お前の官僚人生が終わるぞ」という声が聞こえた。

「別に構いません。ですが、人の命より大事なものなんてこの世にはないんです」

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