検索窓
今日:29 hit、昨日:31 hit、合計:26,800 hit

18 ページ19

あれ以降、特に何か話すわけでもなく、ただただ魚を見て、館内を歩いていたら、ペンギンの展示を知らせる看板が目に入った。

「行ってもいいですか?」

私が看板を指差して聞くと、音羽さんは「いいですよ」と言った。

「ありがとうございます」

少し早いペースでその場所に向かうと、愛くるしい見た目のペンギンが泳いでいたり、歩いていたりした。
あまりの可愛さに夢中になって見ていたけれど、ふと音羽さんのほうに目を向けたらばっちりと目が合ってしまった。

「ペンギンお好きなんですね」

変に焦った様子の私とは対照的に、音羽さんは表情ひとつ変えず言った。

「は、はい、可愛いので……どうして分かったんですか?」

「今までよりも楽しそうな表情をされていたので」

「なんか、そう言われると恥ずかしいです……全部顔に出てるって感じがして……」

俯きながら言うと、音羽さんは「私は良いと思います。貴女の素直なところ、嫌いじゃないですよ」と言った。

「おかしなことでもありましたか」

音羽さんは、つい顔を綻ばせている私に向かって怪訝そうに言った。

「いえ、嬉しくて」

「……そろそろ帰りましょう。閉園時間も迫ってます」

音羽さんは不思議な表情で少しだけ私を見つめたあと、しゃがみこんでいた私に向かって手を差し伸べた。

「ですね」




最寄りの駅から家まで歩いていた途中、ふいに音羽さんが話しかけてきた。

「ずっと気になっていたのですが」

「はい」

「いつも私のことを”音羽さん“って呼びますけど、貴女も音羽さんでは」

確かに。それはそうなのだけれど、音羽さん呼びが定着してしまって、今更変えるのもどうだろうとそのままにしていた。それに、

「下のお名前でお呼びするのは避けた方が良いと思いまして」

「職場でなければ別に大丈夫です」

それならば早速と、尚さんと呼ぼうとしたけれど、恥ずかしくてなかなか声に出せなかった。でも、せっかく彼がそう言ってくれたのだから、

「こんなタイミングで言うのは違うかもしれないですけど、今日は楽しかったです。一緒に来てくれてありがとうございました、尚さん」

私がそう言うと、尚さんはほんのわずかに微笑んで「こちらこそ」と言った。

19→←17



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (51 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
245人がお気に入り
設定タグ:TOKYOMER , 音羽尚
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

なす(プロフ) - Ashleyさん» 見ていただきありがとうございます。Ashleyさんのおっしゃる通り、この設定ですと妻に統一すべきでしたので、修正させていただきました。ご指摘ありがとうございました。助かりました! (12月17日 12時) (レス) id: 0c8e6ffdee (このIDを非表示/違反報告)
Ashley(プロフ) - 楽しく拝見してます。ひとつどっちなの?という点があります。籍を入れていれば(婚姻届を出した)婚約者ではなく妻ですよね?それに婚約中は苗字変えないので、妻に統一すべきかと思います。 (12月16日 4時) (レス) @page36 id: c473320f23 (このIDを非表示/違反報告)
ローゼンクローネ(プロフ) - 今日も癒されましたぁ! (7月9日 21時) (レス) @page29 id: aa728b33d1 (このIDを非表示/違反報告)
なす(プロフ) - sho.kano0129さん» 素敵なコメントありがとうございます!とっても嬉しいです! (7月6日 8時) (レス) id: 0c8e6ffdee (このIDを非表示/違反報告)
なす(プロフ) - ローゼンクローネさん» いつもありがとうございます!そう言っていただけて良かったです! (7月6日 8時) (レス) id: 0c8e6ffdee (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:なす | 作成日時:2023年5月18日 13時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。