ゼロからはじまるストーリー

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昨日は緊張しているからか、楽しみにしているからか、あまり寝付けなかった。
目覚ましを止めて、昨日準備していたワンピースに着替え、リビングに向かうと、音羽さんがスーツ姿ではなくカジュアルな格好で立っていた。

「おはようございます」

「おはようございます、今日はスーツじゃないんですね」

昨日用意していたフレンチトーストを焼きながら、素直に思ったことを口にすると、音羽さんは「着替えたほうがいいですか」と言った。

「いえ、そういう意味で言ったわけじゃなくて、スーツじゃない姿を初めて見たので、珍しいなぁと」

「出勤時以外は基本私服ですが、ここ最近は休みがなかったので」

MERに官僚の仕事に、両方やっていたら忙しくてなかなかちゃんとした休みがないに決まってる。
でもそんな貴重な休みを私の都合で奪ってしまって良かったのだろうか。

「やっぱり、別の日にしますか？」

「突然どうしたんです」

「久しぶりの休みなら、変におでかけしないほうが良いかなと」

「大丈夫です。それより、そろそろ家を出たほうが」

音羽さんにそう言われて時計を見ると、もう9時半になっていた。のんびり喋って朝食をとっていたから、計画よりも遅くなってしまった。

「そうですね、行きましょう」




駅まで歩いているときも、電車に乗っているときも、音羽さんが何か話すことはなかった。
だけど、いつもより心なしか穏やかな顔をしている気がする。気のせい……ではないと思う。
水族館に入ると、音羽さんは水槽を見つめていた。

「魚お好きなんですか？」

「嫌いではないです。そういう貴女は」

「もちろん好きです……あ、サメ！」

ショーケースの中に入った大きなサメを見て興奮してると、隣にいた音羽さんが小さく笑った。
こんな風に笑うんだなんて思って見ていると、私の視線に気付いたのかすぐに元の表情に戻ってしまった。

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