ゼロからはじまるストーリー

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「お話ししたいことがあります。ここでは人目がありますので場所を変えましょう。この後のご予定は」

「特になにも……」

音羽さんはエレベーターに乗ってすぐに前を向きながら言った。
エレベーターの扉が開くと同時に、音羽さんは早足で歩き始めたので、なんとなく、付かず離れずの距離で着いていく。

しばらくして、彼は少しゆっくり歩き始めて、私が横に並んだくらいの時に、「アレルギーは」とだけ聞いてきた。

「いいえ、ないです」

「それならここで良いですか」

音羽さんが歩みを止めた先にあったのは、いかにも高級そうなフレンチレストランだった。

「内容が内容だけにこういう店でないと話せないと判断しました」

音羽さんは今から何を話そうとしているのか見当もつかない。こんな店に呼び出してまでする話とは一体なんだろう。

「わかりました」

音羽さんは私が病院に顔を出してから帰るまでの一瞬の間に店の手配をしていたようで、奥の方にある個室に案内された。

「早速ですが、婚約者が私であることを誰かに話しましたか」

席に着いてすぐに音羽さんは質問してきた。

「いえ、結婚したことは上司に話しましたが……なんとなく、言わない方が良いのかと思いまして」

「そのまま婚約者のことは詳しく伝えない方向でお願いします」

口に出すことは控えていたのだけれど、疑問に思っていたのが表情に出てしまっていたのか、「私の査定に響いては困りますので」と音羽さんは付け加えた。

「私の婚約と音羽さんの出世が、何か関係するのでしょうか？」

「貴女は東京都側の人間で、私が厚生労働省側の人間ですから。私が貴女と多かれ少なかれ関係があると知られると、お前は東京都側の人間ではないかと疑われますので」

なるほど、それはそうだ。
そんなこと絶対にありえないけれど、私が音羽さんにこちら側の情報を流したり、その逆であったりをしない可能性がゼロとは言えない。
そんな人にこのまま大役を任せることはできないと言われても、文句は言えないか。

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