ゼロからはじまるストーリー

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喜多見先生と別れた後、見知らぬボールペンが私のものの中に混じっていることに気がついた。

書類を運んでいた時はこんなものなかったし、あれ以降誰とも会っていなければ、ボールペンを使用する機会もなかったので、おそらく喜多見先生のものだと思う。さっき一緒に拾っちゃったんだろう。

これどうしよう。赤塚知事に渡すのは気が引けるし、今ならまだ病院にいらっしゃるかな。わからないけど、病院に届ければ確実に喜多見先生の元に渡るはず。
そうと決まれば、とすぐに帰りの支度をして、東京海浜病院に向かった。

ナースステーションで喜多見先生に用がある、と伝えると、彼ならMERスタッフルームにいるはずと場所を案内してもらい、その部屋に向かった。

「すみません、喜多見先生はこちらにいらっしゃいますか？」

ドアのところから声をかけると、そこにいた人たちの視線が一斉に私に集まった。その中には“なんで来た”と言いたげな視線を向けている音羽さんも混じっていた。

「ああ！音羽先生、彼女ですよ。音羽さん」

「私に報告する必要はないですよね」

音羽さんって私の前だとそっけないとかそういうわけではなくて常にこんな感じなんだ。私が嫌われているのだと思っていたから少し安心。

「このボールペン、もしかして喜多見先生のじゃないかなと思いまして、多分さっき一緒に拾っちゃったんだと思います」

「わざわざありがとうございます。良かった、無くしたと思ってたので」

喜多見さんは屈託のない笑顔を浮かべて、私の行動の大したことなさに比べると大袈裟なくらいのお礼を言った。

「こちらこそ良かったです。突然来ちゃってすみません。私はこれで失礼します」

ふと目に入った時計の時刻を見ると、午後7時を示していた。これ以上皆さんを足止めするのは申し訳ない。
じゃあ、と手を振る喜多見さんに挨拶をして部屋を出た。
病院のエレベーターを待っている途中、足音が聞こえたので振り返ると、仏頂面の音羽さんが立っていた。

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