ゼロからはじまるストーリー

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「うわっ！」

「おっと、ごめんなさい、大丈夫ですか？」

廊下で派手に転んでしまった私に手を差し伸べたのは、紛れもない、あの喜多見幸太さんだった。

「え、あ、はい、大丈夫です」

「うわあ、ほんとにごめんなさい。ダンボールの中身散らばっちゃいましたね」

「こちらこそ、前を見ずに歩いてたので……」

喜多見さんは「気にしないでください。僕が避ければ良かったんですから」と言って、にっこり笑いながら散らばった資料をまとめた。

「名札、貴女のですか？」

「あ、ありがとうございます。一緒に落ちちゃったんですね」

「音羽さん、っていうんですね。うちにもいるんですよ音羽って人。あ、もしかして知り合いですか？」

それとも妹さん？と喜多見さんは続けた。
確かに音羽ってあまりいない名字だし、音羽さんのお知り合いの可能性はある。

「音羽尚って言うんですけど、知ってます？」

「え？」

音羽尚って、あの？私の知っている音羽尚？
音羽さんはMERのメンバーだったってこと？

「どうかしました？」

「あ、いえ、何も！」

その人と結婚してます、なんて言えない。
喜多見さんの反応からして、音羽さんが私と結婚したということは話してなさそうだし、(まあそうペラペラと話すものでもないけれど)私も余計なことを言うのは辞めておく。

「これ、運んじゃいますね。どこに運びますか？」

喜多見さんは先ほどまで私が抱えていたダンボールを持ち上げていた。

「そんな、大丈夫です！運べますから！」

「前が見えないくらい高く積み上げてましたし、また人とぶつかったら困るでしょ？」

「それはそうですけど……」

「それに力には自信がありますから、ね？」

喜多見さんがペシペシと腕を叩いたことに思わず笑ってしまいながら、私は「じゃあお言葉に甘えて」と荷物を運ぶのを手伝ってもらった。

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