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流れの緩やかな川はさらさらと心地よい音を立てて、周囲の音を飲み込んだ。
まるで世界に私たちしか居ないんじゃないかと錯覚する程。


『ひゃー、綺麗』

「うぉ、すげぇ火力」

シュワシュワと独特な音で火花を散らす花火。

『私の煉獄さん色だ』

「うわ、冨岡の色じゃねぇか!」

『いいじゃん仲良しの色』

「友達になんかなった覚えねぇ…!」

最初こそは付き合ってやる、みたいな雰囲気出してた実弥は楽しそうに花火をしている。
今も昔も変に素直じゃないんだから。

「夏だなァ…」

砂利に落ちていく火花をじっと見ながら言う実弥。
白い髪は色とりどりの花火の光を写していた。

『へへ、いっぱい思い出作ろうね』

しゅん…と花火が消えた途端一気に暗闇が戻る。

すぐ隣にしゃがむ実弥と目が合うと、どちらからともなく顔を寄せて、キスをする。
さりげなく頬に触れた手は暖かくて。甘い動作一つ一つが鼓動をはやくさせる。


「A、幸せか?」

『なに?その質問』

「…深い意味はない」

『ふふ、うん。とっても幸せ』


生温い風と一緒に実弥の香りが鼻腔をくすぐった。

サラサラとなびく銀髪を指先に絡めるように撫でる。
その手に擦り寄るように目を閉じた実弥。

『…かっこぃ…』

思わず口に出た。だってあまりにも顔が整いすぎているから。

「…やめろォ…」

暗くてもわかる。途端に顔を赤らめて、両腕を膝に交差させた上に顔を伏せた。
しゃがんでいるからたいして変わらない視線。

顔を覗き込めば不服そうにしている顔が愛しくて、おでこにキスをする。



蚊取り線香の匂いが漂う。


どこにでもあるような河原で、スーパーで買った花火をして。

そんなありふれた日常、幸せに決まっている。


隣に実弥がいるから、だから幸せなんだよ。



















だから、私がアメリカに行っても





寂しくないように。





辛くならないように。





思い出をたくさん作ろう。





身勝手な私でごめんなさい。









いつか言わなければいけない事実を、



アメリカの大学に行くと






言えずにいた。

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rann(プロフ) - すべて読ませていただきました!キャラクターとの会話が一つ一つ深くて…もう言葉では言い表せないくらい素晴らしい作品でした!更新を追って見れなかったのが悲しいです…素敵な時間をありがとう! (10月6日 2時) (レス) @page50 id: 22b59ed309 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - 柑橘蛍さん» コメントありがとうございます。あの二人は一生一緒なんです、なにがあっても(;_;) (2021年2月6日 19時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
柑橘蛍(プロフ) - 不死川さんと…また…一緒に…(尊死) (2021年2月5日 16時) (レス) id: c6603d0c65 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - 冬の瑠璃さん» ありがとうございます(;_;)知らないフリ、も読んでくださり嬉しいです。なんとなく話の構造は練れてますのでもうしばしお待ちください、、! (2021年1月9日 23時) (レス) id: 950c111f3d (このIDを非表示/違反報告)
冬の瑠璃 - とても感動しました!私、“知らないフリ”も見てます!大ファンです!お話待ってます! (2021年1月8日 18時) (レス) id: ee38c723d2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:パチ麻呂 | 作者ホームページ:ないです〜  
作成日時:2020年7月6日 2時

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