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とある日の夕方。
仕事から帰れば、玄関に脱がれた小さなローファーを見てAがいることを悟った。
「Aー、帰ったぞォ」
いつもならすぐさま来るはずの姿が見えず頭に?を浮かべる
「…A?」
リビングのドアを開けば、机に突っ伏して眠るA。
珍しく制服を着ていたことから、午前中は学校に行っていたのだろう。
手にはシャーペンが握られ、机には参考書やプリントが広がっていた。頑張ってんだな。
少し汗ばんだ額に張り付いた髪をかきあげて頭を撫でてやると、気持ちよさそうに笑った。
思わずあどけない笑顔にグッときておでこにキスをした。
机に置かれた1枚の見慣れない紙。
手に取って見れば、それは模試の結果。
「ハハ…コイツ、こんな頭良かったのかよォ…」
有名私立大学を合格圏内に収め、これからの努力次第では国立も狙えるのではないだろうか。
しかし志望校の欄にはそういった大学名は見当たらない。
「…んだこの大学」
目に止まったのは、カタカナ表記の見るからに国外の大学名。
コイツ、留学したいなんて言ってたか?
まあでも、進路はAの自由だ。
したいようにすればいい。好きに生きて欲しい。
目の下にはうっすら隈が浮かんだAの下まぶた。
親指で撫でてやれば、眉根を寄せてゆっくりと目を開いた。
『あ…』
「起こしたか、悪ぃな」
ううん、と言って俺の手に手を重ねて、ふにゃりと笑った。
『実弥、おかえりなさい』
「おー、ただいまァ」
俺が持つ模試の結果用紙を見て、ガバッと起き上がった。
『え、なんで、それ…か、返して』
「わ、悪ィ」
焦って取り返されて驚いたが、成績を人に見られることに抵抗があるやつだって珍しくない。
『…見た?』
「あぁ、気分悪くしたなら謝る」
『いや、いいんだけど…その』
「…この進路のことか?」
『うん…びっくりした?』
「まァ…お前留学すんのか?」
『…』
ついに何も言わなくなったA
俺にも思い当たる節はある。
“ちょっと進路で悩んでて。でも大丈夫です”
今世で再会してすぐ、俺の家に初めて来たとき
Aはそんなこと言っていた記憶がある。
「A、散歩行くか」
『散歩?』
「おー。着替えてくっから待ってろ」
『…うん』
Tシャツにハーフパンツという適当な服に急いで着替えて、Aの手を引いた。
『どこ行くの…?』
「あー、川沿い歩くか」
『ん…』
煮え切らない顔のA。
とりあえず手を引いて家を出た。
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rann(プロフ) - すべて読ませていただきました!キャラクターとの会話が一つ一つ深くて…もう言葉では言い表せないくらい素晴らしい作品でした!更新を追って見れなかったのが悲しいです…素敵な時間をありがとう! (10月6日 2時) (レス) @page50 id: 22b59ed309 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - 柑橘蛍さん» コメントありがとうございます。あの二人は一生一緒なんです、なにがあっても(;_;) (2021年2月6日 19時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
柑橘蛍(プロフ) - 不死川さんと…また…一緒に…(尊死) (2021年2月5日 16時) (レス) id: c6603d0c65 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - 冬の瑠璃さん» ありがとうございます(;_;)知らないフリ、も読んでくださり嬉しいです。なんとなく話の構造は練れてますのでもうしばしお待ちください、、! (2021年1月9日 23時) (レス) id: 950c111f3d (このIDを非表示/違反報告)
冬の瑠璃 - とても感動しました!私、“知らないフリ”も見てます!大ファンです!お話待ってます! (2021年1月8日 18時) (レス) id: ee38c723d2 (このIDを非表示/違反報告)
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