19 ページ21
店から出れば、空は暗くなっていた。
『すごい美味しかったです、ご馳走様でした』
律儀に頭を下げたA。
会計の時は物凄い形相で「払います」の一点張りだったがなんとか丸め込んで今に至る。変なとこで強情な性格は変わっていないなとしみじみ。
湿り気のある冷えた夜風にAは目を細めた。
鬼殺隊時代から細かったけれど、今の方が細い。
稽古ばかりしていたあの頃の筋肉量などから比べたら当たり前か。
そして、前より派手だけど年相応な化粧。
妙に落ち着き払っていたあの時とは違って嬉しい時は高い声ではしゃぐ。
刀を握った時に垣間見える荒々しさなど微塵も感じない。
知っているのに知らないことだらけだ。
Aを見つけた安心感で忘れていた。
コイツはコイツで今の人生を歩んでいる。
Aに鬼殺隊時代のことを思い出させるのは果たして正しいのか。
自分の執着した恋心をぶつけていいのか。
前世の約束、それは通用するのか。
車にのりこめば、沈黙が流れた。
ちらりと腕時計を見れば7時過ぎ
『…』
「…」
気が利く男なら“この後どうする?”とか言うんだろうなァ。
でもコイツはまだ女子高生。しかも付き合ってない。
行動を起こそうとする度に頭によぎる事実。邪魔だ。
「…ちょっと遠回りして帰るか」
『っはい!』
やっとの思いで言えばぱっと明るい顔で返事をしたA。
あー、帰したくねぇ。
___
_____
________
本来なら20分で帰れる道を倍の時間をかけて家まで向かった。
車内ではお互いのことを質問しあったりしたが、Aの好みなどは基本的に知っていることばかりで安心した。
笑う時は「へへ」と笑ったり、好きな色、好きな花、好きな食べもの。
逆に、Aに俺のことを話すのは少し心が疲れる。
ほんとに覚えてないんだな、と思い知らされるから。
それでも嬉しそうに笑うAを見ればどうでもよくなった。
『あの、これ。ありがとうございました』
綺麗に紙袋に入れられたタオル。
そうだ、本来の目的はこれだった。
『来週の日曜、忘れないでくださいね?』
「あァ、手料理な。練習しとく」
『ふふ、お腹空かして待ってます』
「おー、そうしろ」
次は目的なく会える。
『じゃあ、おやすみなさい。楽しかったです』
「おやすみ」
ワンピースの裾を翻して行ったA
揺れる裾は、かつての鬼殺隊時代の羽織を彷彿とさせるものだった。
その後ろ姿に懐かしさを感じて見送った
436人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
パチ麻呂(プロフ) - 莉子さん» コメントありがとうございます!近いうちに続編公開致します、もう少しお待ち頂ければ幸いです! (2020年7月5日 0時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - とっても面白かったです。続きも楽しみです! (2020年7月4日 20時) (レス) id: 7a18dbf6fa (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - あさこさん» コメントありがとうございます!次の章まで時間が空いてしまうかもしれませんが、幸せな2人がかけるように準備頑張りますので、楽しみに待っていてください(;_;) (2020年7月2日 5時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
あさこ(プロフ) - 毎回更新楽しみにしています!!優しい実弥さんも夢主さんも絶対に幸せになってほしい(*´∀`*) (2020年7月2日 3時) (レス) id: 81f776d056 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - ぽんちゃんさん» 夢主ちゃんの家庭ならありそうですけど、実弥さんはしっかり自立した成人男性ねさであり、きっと親からも信頼されているので、ないんじゃないかな!と解釈しております! (2020年6月27日 4時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ