獅 子 奮 迅 3【不死川実弥】

百三十七話 ページ38

･


鬼舞辻無惨との最終決戦を控え、柱稽古に勤しむ日々。

風柱邸




「おい、そんな薄着だと冷えるだろ。これ着とけ」

『実弥、ありがとう』

ふわりと実弥の香りに包まれた。
肩にかけられたのは実弥がよく部屋で着ている羽織だった。
実弥は縁側に腰掛けていた私のすぐ隣に腰掛けた。

「なにしてんだァ？」

『お月様みてるの。すごく綺麗じゃない？』

「ヘェ」

私を真似て夜空を見上げた実弥の返事はなんとも感情を感じられなかった。

『ふふ、あんま興味なさそうだね』

「まあなァ。月が出てると鬼のことを考えちまう」

『柱稽古どう？そろそろ炭治郎くん達そっちに行くよ』

獅子柱である私の稽古は力強く、それでいて素早い攻撃の練習を目的とした打ち合いを行う。

順番的に次が風柱の稽古となっていて、今は私は前住んでいた獅子柱邸を稽古場として使っている。

「ハッ、俺はアイツを認めねェ」

『まあまあ、そんなこと言わずにさ。話せばわかる事もたくさんあるよ。…玄弥とも』

「…俺に弟はいねェ」

比較的穏やかだった実弥の表情は一気に強ばる。

『あんまり深くは詮索するつもりないけれど。…後悔してからじゃ遅い事もあると思うけどなぁ』

「……わぁってる」

ぶっきらぼうに返事をして不服そうな顔をした。
相変わらず弟の玄弥の話をするとこういう嫌な空気になってしまうから避けてきた。

悪くなってしまった空気に耐えきれなくなってしまった私は実弥の手を握った。

『疲れたよね、もう寝よう』

「あァ…」

いくら柱と言っても一日中隊士の相手をして、隙間に時間を見つければ夜間の担当地区の警護に赴いている。
それなりに疲れているのは実弥も同じで、大人しく返事をした。

『行こう』

私が立ち上がっても実弥は動かない。

『どうしたの？』

「A」

急に近強く手を引かれ、座っている実弥の膝の上に強制的に乗っかってしまった。

『どうしたの、急に甘えん坊さんだね？』

私のことを抱き寄せたと思えば、肩に頭を乗せて脱力してしまった。

「…悪ぃな、心配かけて」

きっと玄弥のことを言っているんだろうな

『ん』

きっと、本人もいろいろ考えているんだろう。それはもう十分伝わっているから私も深くは関わらずに支えてあげるつもりだった。

あまり多くは語らない彼の頭を優しく撫でた。

しばらくそうしていると、眠くなったのか手を引かれて寝室へ向かった。

百三十八話→←百三十六話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す