百三話 ページ4
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「俺と、結婚してくれ」
その言葉がAの耳に届いた瞬間、大粒の涙が頬を伝った。
あまりにも綺麗だった。
青、赤、緑、色んな色がAの涙に色をつけた。
不思議なことに、緊張なんて一切していなかった。
まるで、当たり前のことを口にしているような、そんな感覚だった。
口からでまかせなんかじゃない。
目の前にいる、この新堂Aという人間に恋をして。
Aを幸せにしてやりたい、と思った。
こいつの思う幸せを、俺が一緒につくりたいと。
こいつの願った未来を、その景色を、隣で見たいと思った。
女にとっての幸せとかじゃない。
Aにとっての幸せを俺が守ってやりたい。
「なぁ、これ受け取ってくれねぇか?」
懐から取り出したのは、ずっと渡そうと思っていた簪。
桐箱を開ければ、あの時選んだ青い硝子細工の玉簪。
『っ…うぅ、…っ』
ボロボロと涙を流すAは声も発せないくらい泣いていた。
震える手でそれを受け取ると、大事そうに胸に抱きしめた。
『っ…実弥、実弥。…実弥』
「ああ、聞いてる。ゆっくりでいい」
『好き、大好き。…実弥、大好き』
「知ってる」
『実弥、私、大好きな実弥のお嫁さんになりたい』
「俺も、Aをお嫁さんにしてェんだ」
『グスッ…私が、すぐ死んじゃっても…?』
「…死なせねぇよ。絶対に。1人で死なせやしねェ」
『私が、あと7年しか生きられなくても?』
「…7年?」
『私のこの痣、これが出た人は、25歳までに、死んでしまうの』
「…そんなの、なんの関係もねぇよ」
『…実弥』
「俺が、そんな未来ぶった斬ってやる。約束する。お前を1人で死なせねぇ。命をかけて、幸せにする」
俺の言葉を聞いたAは目を見開いたかと思えば、またぐしゃぐしゃに泣き出した。
『うぅー、お願いしますぅ…!』
情けない声でわんわん泣くAをしっかり抱きしめた。
その小さな身体は、初めて抱きしめたあの時からずっと恋焦がれている。
痣のことは正直驚いたが、そんなの関係ない。
明日生きてるかなんて分からないんだ。
7年後、いや、その先もコイツが笑っている未来を想像して、俺も少し泣きそうになった。
ぐっと堪えて、Aの細い肩に顔を埋める。
世界一愛しい人を抱いて、美しい空を見上げる。
絶対に幸せにする、その決意を胸に抱いた。
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パチ麻呂(プロフ) - snowさん» コメントありがとうございます。最後の部分は個人的にこだわっていたシーンなので嬉しいです!続編の方も楽しんで頂けたら嬉しいです! (2020年11月8日 16時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
snow - パチ麻呂様!とりあえずお疲れ様でございました!もうすごく感動的というか、画面の前で号泣してしまいました。ありがとうございました。高評価して、続編に飛んでいきます!これからも応援してます! (2020年10月28日 22時) (レス) id: 6289ae6079 (このIDを非表示/違反報告)
みーさ(プロフ) - お返事ありがとうございます!性癖っていうんですかw続編も見させて頂いてます!これからもよろしくお願いします(*'ω') (2020年6月22日 21時) (レス) id: 02b4f910b1 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - みーささん» うわわ(;_;) すっごく嬉しいです、、!こういうオチが性癖なので受け入れていただけるのは本当にありがたいです(( 続編でも当作品よろしくお願い致します! (2020年6月16日 1時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
みーさ(プロフ) - コメント失礼します。どストライクな作品でもう号泣しました(TT)ありがとうございました!! (2020年6月15日 21時) (レス) id: 02b4f910b1 (このIDを非表示/違反報告)
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