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百二十一話 ページ22



任務が先に終わった私は家主不在の屋敷に帰ってきていた。
風呂も報告書も全て終わらせそろそろ眠ろうとした頃、玄関の戸が開く音が聞こえた。

『おかえりなさい』

小走りで迎えに行けば、実弥はこっちを見て固まったと思えばぎこちない手で履物を脱いだ。

「あァ、ただいまァ」

すれ違うように私の横を通り過ぎた。
その際、くしゃりとまだ湿っている私の頭を撫でた。

『お、お風呂用意できてるから入っちゃいなよ』

「あァそうする」

廊下を歩く背中に言えば片手を上げて実弥は応えた。


『…結婚してるみたい…!』



一挙一動全てが新鮮味を帯びていて、叫び出したいようなむず痒い気持ちになる。
未だに玄関先で立ち尽くしていた私はしばらく余韻に浸っていた。

「なぁにニヤニヤしてんだ。先寝とけ、疲れてんだろ」

風呂場から顔だけ出してそう言われる
今この瞬間私の頭の中心にいた実弥が現れてあたふたしてしまう。
ドタバタと実弥のもとに走った

『ま、待ってるから!はやく来て』

必死になって袖を掴めば実弥はまた一瞬固まってから風呂場へ歩いていった。

「…慣れねぇな…コリャ」

__
_____
________

今まで幾度となく共に眠ってきた。
同じ布団で眠ることもあった。ひとつ屋根の下で過ごす事が不慣れなわけではない。

でも、なんだろう。この初々しい気待ちは。

『ふふふふふ…』

枕に突っ伏して怪しく笑っていると、頭上から「オイ」と声が聞こえた。

「何してんだァ、寝るぞ」

ポタリと水滴を落とした実弥が私を見下ろしていた。

『い、色気…』

「…何言ってんだお前」

『あ、いや、えと、あの』

分かりやすく慌てる私を見て実弥はプッと吹き出した。

「ははっ、ほんとにお前は飽きねぇな」

『バカにしてる…?』

「してねぇ。褒めてる」

未だに笑う実弥に軽く腹をたててれば、「ん」と頭を突き出してきた。
同じ目線になるようにしゃがみこんでいる実弥と、目が合った。

「髪、拭いてほしい」

『うん、拭く』

低い声で言われて、とくんと胸がなった。
一瞬固まってしまった自分。
実弥もこんな気持ちになったのかな。

ゴシゴシと手ぬぐいで頭をふくと、実弥は気持ちよさそうに目を細めた。

『猫みたい』

「そうかィ?」

『かわいい』

「…男にかわいいとか言うんじゃねェ」

じっとりと睨んでくるその目にも胸が高鳴った。
ダメだ、一緒にいればいる程好きになってしまう。

たまらなくなって実弥の頭をぎゅっと抱きしめた。

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パチ麻呂(プロフ) - snowさん» コメントありがとうございます。最後の部分は個人的にこだわっていたシーンなので嬉しいです!続編の方も楽しんで頂けたら嬉しいです! (2020年11月8日 16時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
snow - パチ麻呂様!とりあえずお疲れ様でございました!もうすごく感動的というか、画面の前で号泣してしまいました。ありがとうございました。高評価して、続編に飛んでいきます!これからも応援してます! (2020年10月28日 22時) (レス) id: 6289ae6079 (このIDを非表示/違反報告)
みーさ(プロフ) - お返事ありがとうございます!性癖っていうんですかw続編も見させて頂いてます!これからもよろしくお願いします(*'ω') (2020年6月22日 21時) (レス) id: 02b4f910b1 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - みーささん» うわわ(;_;) すっごく嬉しいです、、!こういうオチが性癖なので受け入れていただけるのは本当にありがたいです(( 続編でも当作品よろしくお願い致します! (2020年6月16日 1時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
みーさ(プロフ) - コメント失礼します。どストライクな作品でもう号泣しました(TT)ありがとうございました!! (2020年6月15日 21時) (レス) id: 02b4f910b1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:パチ麻呂 | 作者ホームページ:ないです〜  
作成日時:2020年5月4日 0時

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