百話 ページ1
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見慣れないもの全てに目を奪われる。
夏の夜。
いつもは闇に呑まれるこの街は、今日だけは明るい。
蒸し暑さのなかに吹き込む涼しい風。
人の足音。話し声。
祭囃子と、威勢の良い呼び声。
「A」
『っ、なあに?』
横で手を握る実弥の声で意識がハッとした。
非日常に気を取られていた。
「なんか食うかァ?」
『私ね、わたあめ食べたい』
「それならあっちに…」
首をひねって辺りを見渡す実弥。
ぐっと浮き出た首筋。私の彼、なんて色っぽいの…。
思わず見とれていた私の手を引いて実弥に連れていかれる。
「ほら、落とすなよ」
ボケッとしてるうちち実弥はわたあめを買ってくれていた。私の目の前には顔より大きなわたあめが差し出されていた。
『あまい…!実弥も食べて』
「ん、悪くねぇな」
顔に似合わず甘党な実弥は満足そうにしてまた歩き出した。
『実弥、りんご飴…』
「おお、食うか」
『あのお団子美味しそう!』
「ほんとだァ、行こうぜ」
気がつけば私の食べたいものばっかり食べてしまっていたけど、実弥は全部付き合ってくれる。
『あ!あれ!射的やりたい!』
「うし、勝負すっか!」
私の提案に子どもっぽく笑った実弥は早足で屋台へ向かった。
的となった色とりどりの人形や玩具。
その中で目に止まったのは、風車。
的は小さいけど、きっと軽いから当たれば取れるはず!
『よし、実弥準備はいい?』
「おう、いいぜェ」
楽しそうに銃を構えた実弥。
片目を閉じて的を狙う顔が綺麗でまた見とれた。
いけない、集中。
シィィィィィ、と小さく呼吸をする。…クセだ。
極限まで高めた集中力。
ここだ、というタイミングで引き金を引くと、パタン、音をたてて風車は倒れた。
『やったぁ!』
「やるじゃねぇか」
「はいよ、嬢ちゃん射程上手いなぁ、センスあるよ!」
店主のおじさんがニコニコ笑って風車をくれた。
実弥だ、風だもん。
1人でふふ、と笑っていると実弥も景品を落としたようだ。
「こりゃすげぇ。重たいから誰も落とせなかったんだよ。兄ちゃんも嬢ちゃんも軍人さんみたいだな!」
おじちゃんがケラケラ笑って実弥に景品を渡した。
実弥が取ったのは、小さな獅子舞の人形。
『獅子舞…』
「お前、獅子柱だろ。だから、獅子」
『ふふ、私もこれ、風車。実弥が風柱だから!』
2人とも似たようなことを考えていたのがおかしくて、ケラケラと笑った。
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パチ麻呂(プロフ) - snowさん» コメントありがとうございます。最後の部分は個人的にこだわっていたシーンなので嬉しいです!続編の方も楽しんで頂けたら嬉しいです! (2020年11月8日 16時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
snow - パチ麻呂様!とりあえずお疲れ様でございました!もうすごく感動的というか、画面の前で号泣してしまいました。ありがとうございました。高評価して、続編に飛んでいきます!これからも応援してます! (2020年10月28日 22時) (レス) id: 6289ae6079 (このIDを非表示/違反報告)
みーさ(プロフ) - お返事ありがとうございます!性癖っていうんですかw続編も見させて頂いてます!これからもよろしくお願いします(*'ω') (2020年6月22日 21時) (レス) id: 02b4f910b1 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - みーささん» うわわ(;_;) すっごく嬉しいです、、!こういうオチが性癖なので受け入れていただけるのは本当にありがたいです(( 続編でも当作品よろしくお願い致します! (2020年6月16日 1時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
みーさ(プロフ) - コメント失礼します。どストライクな作品でもう号泣しました(TT)ありがとうございました!! (2020年6月15日 21時) (レス) id: 02b4f910b1 (このIDを非表示/違反報告)
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