知 ら な い フ リ ３ 【不死川実弥】

頑張る理由 ページ3

．




Aと距離を置くようにしてから、しばらくした頃。




今までより1時間ほど早く鳴る目覚まし。


1度でそれを止めて、上半身だけ起こす。

冬の朝はただでさえ布団から出たくないというのに、身体が疲労で起きるのを拒否する。


暖かい布団が二度寝を誘う。
俺だってまだ高校生で、鋼のメンタルじゃない。

本当は今すぐ布団に潜り込んで目を閉じたい。
そこにAが入れば最高なんだけどなァ…。



でも、頑張る理由がある。


スマホの待ち受けは、Aの後ろ姿。


顔を見ると会いたくてたまらなくなるから、あえて後ろ姿。



「…っし、やるかァ…」



ボケっとするのはやめて、布団から飛び出た。


「うっ、さみィ…」



．





．





ジャージに着替えて、朝のランニング。


家の中も十分寒いが、外に出ると痛みにも近い寒さが襲う。


通りすがりの散歩している犬もどこか寒そうだ。


「…っし」


準備体操を済ませ、走り出す。


いつものコースを走りながら今日の予定を組み立てていくこの時間が好きだ。

ランニングが終わって家に帰る
朝食と支度をして登校
時間に余裕があれば少しボールを触っておく
授業をうけて、放課後の部活で…


ふと目に止まった、近所の公園





夏。


うだるような暑さのなか、初めてのキスをした所。

不器用なそれを受け入れてくれたA。

鮮やかな緑だった草木はどこか寂しげな色をしている。


「…会いてぇ」



今日は、少しだけ顔を見てから行こう。



．




．




「いってきまァす」

「いってらっしゃい」

「ん〜、いってらぁ」


どんなに朝早くても欠かさず弁当を作ってくれるお袋には感謝しかない。
寝起きで頭もしっかりしていない弟の頭をひと撫でし家を出た。




そして向かったのは、すぐ隣のAの家。

「おはようございマース」

いつも通り勝手に玄関を開けて上がり込めば、仕事の支度をするオバサン。

「あらさねちゃん、珍しいねおはよう」

「Aの顔見に来た」

「ほんと物好き〜」

Aそっくりの顔でケラケラ笑うオバサンに会釈して2階の部屋に向かう。



そうっと音を立てずに部屋に忍び込めば、こんもりした布団。


小さな寝息に耳を澄ませ覗き込めば、あどけない顔で眠っていた。


『…んぅ、むにゃ…』


夢でも見ているのか。



ゆっくりと頭を撫でれば嬉しそうに笑った。



「…好きだ」



柔らかな唇に触れるだけのキスを短く落として、俺は学校へ向かった。

ウワサの的→←．

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す