四十八躍 培う思い出の中に絡め合わせる蜘蛛は「絶対の約束」 ページ47
それは昨夜、夕餉を済ませたミツバが唐突に医師に告げられたある認め難い宣告。
『済まないミツバさん。…君は、このままここに居ればもう長くは生きられなくなる』
彼女は一瞬目の前が真っ白に塗りつぶされた気分になった。この人は何を言っているんだろう。
『実は数日前に症状が急激に悪化した時に分かったんだ。悪化する前は咳や微熱が治っていただろう?君はそれで自己判断で薬の服用をストップしていた。……あれが仇となって、君の体は菌が変異し"多剤耐性結核菌"っていう「薬が効かない菌」になりつつある』
医師は一呼吸置いて彼女から目を逸らす。
『今の君の体はまだ免疫力が足りているから問題ない、"今のところ"はね。…でも、結果からもう当病院では君を治す事は出来なくなった』
そして、医師は『国外へ…オーストラリアの国際病院に君の病気を治せるかもしれない先生が居る』という。だから、本当に治したいなら明後日までに自分に申つけろと。自分もできる事はするとだけ言い、病室を後にした。
ミツバは暫く呆然と医師が出ていった扉の方を見詰めていた。
****
「…つまり、私は明日に旅立つ事になるわ」
静かに黙って聞いていた…いや、黙って聞く事しかできなかった二人はいきなり突きつけられた事実を受け入れられなかった。
沖田は背負いきれない荷を胸に無理矢理押し付けられた錯覚に陥り、妙に胸が苦しく痛んだ。同時に崖から落とされた様な虚ろな気持ちになり、すぐ反応することが出来ない。
しかし、沖田以上に土方は驚愕の表情を隠しきれずに時が止まった様に思考も身体もピタッと止まってしまった。
いつの間にか窓の外は雨がやみ、真っ黒な曇天だけが残った。稽古場に淀んだ沈黙が流れ始める。
土方はギリッと歯ぎしりを立て誰にも気づかれない様に拳を力強く握りしめる。
ガキの頃から微塵も離れたことがなかった彼女が明日になればスッと消えてしまうのだ。彼らが培ってきた思い出の余韻を絡め取っていく様に…。
ミツバは沈黙の中、口を開く。
「…私は貴方達と本当は離れたくない。でも、病気も治したい。治して……、また貴方達と学校に通いたい…」
「……行って下せェよ」
と、ミツバの気持ちに応えるように返したのは沖田だった。意外な人物の意外な言葉に土方は目を見開く。彼は自分よりも行かせたくないだろうに。誰よりも側に居たいだろうに。
沖田は顔を上げ、優しく笑いかける。
「行って、…絶対治して帰ってきて下さい姉上」
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白玉(プロフ) - 面白すぎる..さすがプリン!!ww (2017年10月1日 8時) (レス) id: d7b0293ef7 (このIDを非表示/違反報告)
プリンちゃま(別垢)(プロフ) - みかんさん» みかんさん、ありがとうございます!『面白い』と評価して下さってマジで嬉しいです!!これからも応援ヨロシクお願いします★ (2017年4月8日 20時) (レス) id: 5afe51ca08 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - とっても面白かったです!沖田と神楽の所が特に面白いです!これからも更新頑張ってください!応援しています! (2017年4月8日 19時) (レス) id: 7cb491045b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:交差点プリン | 作成日時:2017年3月31日 18時