petit dejeuner

. ページ38

夜になったらふっかが迎えに来た。
3食外食の深澤を気遣って、宮舘はサラダを出すが苦手そうに顰めっ面を見せるから渡辺は笑った。
閉店までふっかはカウンターでゆっくり宮舘の珈琲を飲んでいて、家まで送ってもらうのがルーティーンだ。
以前と変わらず、距離は縮まらないままだけど、たまに深澤の家に寄ってゲームをするのが楽しかった。

春になって夜でもあったかくなり、深澤は腕のシャツをまくった。

「なぁ、あの夜のこと。二人っきりならいい？」
「ん？」
「俺、阿部ちゃんにキス、しただろ？それで俺は殴られてアザ作ってさ。なんでそのこと言わなかったの」

あの時を思い出して痛そうに顔を歪める深澤は少し可愛くて、ぷ、と吹き出しそうになる。
あの時は手加減しなかったからな。驚いて勢いで殴って、次の日さっぱり覚えてもいない深澤に何故かすごく腹が立った。もう一回殴ってやろうか、とも思ったんだ、なぜか。

「別に」
「キスされたのがやだったとか言えばよかったじゃん、俺阿部ちゃんが機嫌悪くてちょー嫌だったんですけど」
「だから、その、」
「ん？」

隠しきれなさそうな気持ちに、どうでもいいや、と思って口に出した。あの時の気持ち。

「嫌だったの、ふっかが忘れてたのが」

そう言えば、歩いてた足を止め、数センチの距離だった腕を引っ張られて自分も足を止める羽目になった。
「ん？」そう首を傾げると、もぞもぞとなんだか言いたいことがありそうな顔だ。数秒見つめあって、深澤は口を開いた。

「むり、キスしていい？」

目を大きく開かれて、その目が街頭に照らされて、後戻りできないと思った。俺の誤解かもしんねぇけど、それって。

「だめ、」

そのダメは、絶対うそじゃん。別にそんな確信は無かったけど今ならなんとなく許してもらえそうな感じがして、繋いでた腕を引っ張って首に手を回して開きっぱなしになった唇に唇を合わせた。

.→←EP8 遠くて近い

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す