29話 ページ30
あいつは、真選組を辞めると言った。
「土方さん。
あんたはAが真選組を辞めようとすること、知ってたんですかィ」
先刻まで、道場に竹刀のぶつかる音が響いていたことは知っている。
土方さんの頰を、汗が伝う。
大方、Aはここで土方さんと一戦交えてから俺のところへ来た、というところか。
「知ってた。」
ただ、一言。
知っていたとだけ言い、口から煙草の紫煙を吐き出した土方さんに、ふつふつと怒りが湧いて来た。
「何で止めなかったんですかィ」
睨みを効かせれば、土方さんは煙草を灰皿へ押し付け、俺の方へむきなおった。
「あいつが自分の意思で決めたんだ。
俺に止める権利はねぇよ。」
そう言って冷たくAを突き放す目の前の男が、あの時姉上を突き放した野郎の顔と重なった。
確かに、Aは自分の意思で辞めると決めたのだろう。
けれど、長年共に戦って来た仲間から辞めると告げられ、簡単に割り切る野郎が。
簡単に割り切ったように見える野郎に、納得がいかない。
俺には
ただの八つ当たりだなんてことは、痛いほど分かっていた。
辞めると言ったAを強引にでも止められなかったのは俺で。
多分、Aが真選組を辞めることになった原因も俺なのに。
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作者名:けんそう | 作成日時:2018年5月11日 7時