あの音をもう一度 (ページ10)

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宏「では、楽しみにしていますね。」

本村から弓と矢を借り受け、Aと愁は1度巻藁をし射場に入る。
見学の新入生2人が弓を引くと聞きつけ、上級生たちも手を止めて見守っている。

Aと愁は沢山の目線を感じながらも、いつも通り西園寺のところで引くように足踏みから始める。

射法八節。
それは弓道において1番初めに習うことであり、最も大事な基本ルールだ。

簡単なように見えるが実際にやってみると難しさがわかる。

時間をかけて習えばそれなりの射にはなるが、本当に美しい・正しい・魅せる射はただ練習するだけでは身に付かない。

技術を磨くだけではない。
弓を愛し、弓の道を通じて心と体を一体とし内面の価値を高め"正射必中"を目指したその先を見る。

公式試合などでも他人と競うことに重きを置きがちだが、真の敵は自分。

どんな状況下でも常に平常心を保つこと。
これこそが弓道という弓の道を進む上で重要なことだ。

宏「ほぉ、これは...。またとんでもない後輩が現れてしまいましたね。」

Aと愁の射は幼いながらも、見るものを惹きつけるものだった。

射に人柄が現れるというが、2人の射は凛として隙がない。
その中にも華やかさ美しさがある。

カーン

2本の矢が放たれ、それぞれの弓から奏でられるツルネ。
そして的の真ん中に中る矢。

「よし！」

矢が的に中った知らせが看的から聞こえてくる。
それと同時に後ろから聞こえるざわめき。

後ろの先輩たちのざわめきに、そんなに変な射だっただろうかと心配するAと愁。

しかし、射終わった2人に本村は拍手をしながら近づいてくる。

宏「君たちの射はとても綺麗でした。ただ中るだけではない。弓道というものは、やはり美しさも兼ね備えている武道だと改めて思わされました。」

『ありがとうございます。』

愁「射格は日々の修練の積み重ねだと教わってきましたので。」

Aと愁はそのあと先輩たちに質問攻めにあい、それは顧問が来るまで続いた。

そして本村が顧問に事情を話し、2人の入部が確定する。
Aと愁は、晴れて桐先中学弓道部員としての1歩を踏み出したのだ。