7 ページ7
西「湊は今日からしばらく弓の練習はお休みする、と連絡がきました。」
夏休みに入り、これからというときに西園寺から告げられた湊のこと。
Aと愁は意味がわからない、というような目で西園寺をじっと見る。
愁「湊は...。理由を伺ってもよろしいですか?」
愁は何か言いたそうだったが、2人が1番気になっていることを西園寺に聞く。
あんなに弓が大好きな湊が、突然なぜなのか。
西「詳しい理由は教えられません。ただ家庭の事情としか。」
『家庭の事情...湊は...湊はまた戻ってきますよね?』
Aは納得がいかないというような、困惑した目で西園寺に尋ねる。
西「えぇ、きっと戻ってくると思います。だから2人は湊の帰ってくる場所を作って待っててあげてください。」
愁「わかりました。」
『はい。』
2人は理由に納得こそできなかったが、湊の帰る場所を作るという西園寺の言葉に頷く。
そうしてAと愁は湊が帰ってくると信じ、西園寺のもとで稽古に励むのだった。
湊が帰ってくるのを待つAと愁。
2人はさらに腕を上げ、西園寺の秘蔵っ子とまで噂されるようになっていた。
そして気づけば秋の紅葉も落ち、冬の寒さも峠を越し、植物達が新しい芽を出す季節になろうとしていた。
2人は春から桐先中学校に通うことが決まっている。
これからの新しい生活、新しい環境に心が躍る。
しかしAと愁の心には、必ず湊がいた。
すぐに帰ってくるだろうと思っていた湊は、なかなか戻ってこない。
西園寺にそれとなく聞いてみるが、いつも上手くはぐらかされ本当の理由も聞けずにいた。
桐先に行けば、弓道部に入れば再会するかもしれない。
湊は弓が大好きだから。
いつもの帰り道。
Aは愁の袖を控えめにつかむ。
『愁、また会えるよね。』
愁「あぁ、会えるさ。おれたちが弓を続けていればね。」
誰に、とは言わない。
ただただ3人でまた、弓を引きたい。
そんなことを思いながら、愁はAの小さい手を袖から自分の手の中に包み込んだ。
185人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:希子 | 作成日時:2023年2月1日 13時