あの音をもう一度 (ページ6)

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桜が満開になり、A達は小学6年生になった。

3人は変わらず西園寺の元で弓の練習に明け暮れていた。
今日も誰が最初に"抜く"だの"詰める"だのと言い合っている。

そんなA達を西園寺は少し遠くで見守るように見ていた。

湊が清葉弓道場に来て、もうすぐ1年が経つ。
西園寺の見込んだ通り、Aと愁にとって湊は弓友であり戦友になりつつある。

西「さぁさぁ、仲良くお喋りもいいけれど、ちゃんと的に当たるようになりませんとね。」

話が終わらないのを見かねて3人に声をかけた。

その声にAと湊は西園寺のもとに駆け寄ってくる。

湊「あ、西園寺先生！俺の射形見てよ！」

『えぇー、湊ばっかりズルい！先生、今日は私からですよね！』

Aと愁、特にAは湊と接していくうちに本来の子供らしさを思い出したかのようだ。

愁「湊、A、西園寺先生が困ってるじゃないか。それに、今日はおれが最初に見てもらうって約束してるんだ。」

そう言って愁は後ろで静かに弽をつけ準備を始めている。
今に始まったことではないが、愁は大人しそうに見えて意外とやり手だ。

Aと湊はそんな愁を見て降参という風に手を挙げ、自分達も準備をするために愁のいるところへ向かった。

西「愁、綺麗な射に近づいてきましたね。毎日の積み重ねでここまで成長できたのでしょう。これからも期待してますよ。」

愁は西園寺に褒められ、嬉しそうにAと湊を見た。
そんな愁にAと湊は親指を立てて応える。

『ほんと愁の射って綺麗だよね。空気がピンとなる感じ。』

湊「ねぇ、A。俺のも最近いい感じじゃない？西園寺先生にも褒められるようになったんだ！」

練習のたびに愁の射を褒めるAに、湊は愁に負けた気がして自分も西園寺から褒められたと伝えてみる。

『んー、湊の射は綺麗だけど私は愁の方が好きー！湊はもっと愁の態度を見習ったほうがいいんじゃない？』

湊はてっきり褒められるとばかり思っていたので、予想外の答えに少しポカンとする。

そんな湊の顔を見て、Aは挑発するように笑いながら湊に向けて舌を出した。

『んー、そしたら次の立ちで私に勝てたら認めてあげる！』

湊はそんなAに"次は絶対勝つ！見てろよ！"と言いながら、西園寺に稽古をつけてもらうため的前に歩いて行った。

それはもうすぐ梅雨入りになる。
夏本番前の少しじめっとした、そんな日だった。