あの音をもう一度 (ページ44)

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あれからAと雅貴は互いの音だけを聞きながら、弓を引き続けていた。

Aは雅貴の背中側にいる。
普段は愁の背中ばかり見ている彼女にとって、雅貴のような大人の男性の広い背中は見慣れないものだった。

雅「あと一手で終わりにしよう。」

雅貴に声をかけられ、時計を見るといつもなら夕ご飯の時間になっていた。

『わかりました。』

最後の一本を引き終わると、二人は矢取りをし片付けをする。

雅「はいこれ、おやつあげる。」

制服に着替え荷物を取りに戻ると、雅貴が白い包み紙を渡してきた。

『おやつの時間はとっくに過ぎてますよ。でも、お腹空いてたのでありがたくいただきます。』

食べてみると、中に餡子の入ったおやきだ。
久しぶりに食べた和の味に、Aは顔を綻ばせる。

雅貴はそんなAを横目で見ながら、聞きたかったことを尋ねた。

雅「なんでこの場所を知ってたんだ？」

夜多神社はこの辺りでは名が通っているが、弓道場があるのはあまり知られていない。

『この前たまたま散歩してた時に、ここを見つけたんです。そのとき静弥にちょうど会って教えてもらいました。』

雅「静弥に...もしかして合宿のときか？」

『はい。』

雅貴は合宿のとき、静弥が弓道場の外で誰かと話していたことを思い出した。

雅「ということは、湊とも仲がいいのか。』

静弥が弓友だと言っていたということは、湊とも友達のはず。
だが雅貴の問いに、Aは沈黙する。

『...。湊が早気になった時の話はご存知ですよね？その前までは仲がよかったと思います。小学生の時も同じ師のもとで学んでいましたから。』

雅「何かあったのか聞いても？」

Aは雅貴を見る。

今更人に言って何になるのだろう。
私は湊から逃げたのに。

そう思っていると、どこからか鳥の鳴き声が聞こえてきた。

雅「どうやらフウが来たみたいだ。」

『フウ？』

すると雅貴は立ち上がり彼女の肩に青い布をかける。

雅「あ、そのまま動くなよ。」

『え...はい。」

Aは状況がわからずキョロキョロしていると、安土の方から白い大きな物体が飛んでくる。

『うわっ！』

ぶつかると思い目を閉じるが、その感触はない。
そのかわり、右肩に感じる重みと暖かい体温。

恐る恐る目を開けてみると、真っ白なフクロウがAの肩にとまっていた。