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静弥と別れたあと、Aは夜多の森弓道場に来ていた。
先日ここを訪れたとき、料金を支払えば使えると知り、一度この場で引いてみたかったのだ。
Aは所定の場所にお金を置き、弓道場の中に入る。
年数がかなりたってはいるが、綺麗に掃除がされていて趣のある弓道場だ。
『素敵な弓道場ね。』
そう一言呟くと、Aは更衣室で着替えをし、弓と矢などの準備をする。
『...。』
射位に立つと、初夏に向けての優しい風がAの髪を揺らす。
彼女は今、何を思って弓を引いているのだろう。
夜多の森弓道場がAを見守るなか、彼女はひたすら弓を引き続けた。
風舞弓道部のコーチ、滝川雅貴は部活が終わり夜多神社に帰っていた。
県大会の予選が終わり、男子団体と女子の妹尾梨可が本戦へ進むことが決まっている。
次の試合でも良い結果が出せるよう、彼らをサポートしてやらねばと思っていた。
神社に着きいつものように弓道場に向かうと、珍しく先客がいるらしく、ツルネと的に矢が中る音が聞こえてくる。
雅「ん、あの子どっかで...。」
雅貴は先日の県大会の予選を思い出す。
雅「桐先の子か。なぜここにいるんだ?」
なぜいるのか不思議に思い、弓道場に上がる。
するとその音で気付いたのか、彼女は弓を持ったままこちらを見ていた。
雅「すまない。先客がいるとは思わず。」
『いえ、こちらこそすみません。普段は人がいないものと思っていたので。』
雅貴とAは互いにぺこっとお辞儀をすると、自己紹介をはじめた。
雅「俺は滝川雅貴。風舞弓道部のコーチをやってる。君は桐先の子だろ?」
『はい。一年の五条Aと申します。滝川さんのことは先日の県大会でお見かけしました。』
雅「五条A、確か個人戦の予選一位通過だったよね。射がとても綺麗だったから覚えてるよ。」
『いえ、まだまだです。』
そういうとAは持っていた弓を置き、片付けはじめた。
雅「もう帰るのか?まだ引いていけばいいのに。」
『滝川さんのお邪魔になるかと思いまして。』
雅「いつも一人で引いてるんだ、たまには誰かと引きたい気分でね。Aちゃんがよければ、だけど。」
雅貴は首を少し傾け、Aに尋ねる。
『わかりました。では、喜んでご一緒させていただきます。』
雅貴の誘いに、Aは再度弓を手にしながら答えた。
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作者名:希子 | 作成日時:2023年2月1日 13時