あの音をもう一度 (ページ28)

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万「そうそう。それにそんなこと言うなら、先輩が譲ればいいじゃないっすか〜。」

椛「屁理屈を言うな！」

「椛島、気が済んだろ。もう行こうよ。」

椛「とにかくだ、うまくやれよ。わかったな。」

言いたいことを言い終えたのか、椛島は一緒に来たもう一人に連れられて弓道場へ帰って行った。

千「なんなの、あれ？」

千一は先輩たちが帰った方を見ながら言う。

愁「きっと八つ当たりだろう。椛島先輩はここまでに一射外してる。」

ここまで全射皆中しているAたち四人に対しての、椛島からの言葉。

『そんな言葉でどうこうなる私たちじゃないのに。』

愁「そうだね。俺たちは俺たちの射をやるだけだ。」

愁は真っ直ぐ前を見ながら言う。
その瞳に迷いはなく、余裕の笑みを浮かべていた。

万「いけいけ〜、藤原と五条〜！」

千「万次、俺らもやるんだよ。」

万「あ、そうだったわ。」

万次のボケに四人は顔を見合わせて笑う。

さぁ、最後の締めだ。
A、愁、千一、万次は立ち上がり、弓道場へと足を向けた。

顧問「では補欠含めた男子選抜メンバーを発表する。」

三巡目も終わり、あとは結果を待つだけとなった。
女子は先に発表がされており、Aは団体戦・個人戦共に出場権を獲得していた。

顧問「三年本村・佐瀬。二年湯島・椛島。一年菅原千一・万次。そして藤原。」

それぞれ名前が呼ばれ、選抜メンバーが決まった。

あとは県大会に向けてひたすら練習するだけだ。

千「なあなあ藤原。藤原の射ってすごく綺麗だろ？」

万「何か参考にしたりしてるのか？」

選抜メンバーの発表が終わり、いつものように着替えてAを待っていると、千一と万次が話しかけてきた。

愁「参考...ベースは小学生から教わっていた先生の射だよ。でも俺は誰かの射を真似るつもりはない。自分の射を磨きたいんだ。」

愁は昔のことを思い出していた。
西園寺のもとで学んでいた時のことを。

千「なら、藤原の射を磨く理由は？」

千一が首を傾けながら尋ねる。

愁「そうだな。俺が射を磨く最も大きな理由は、心臓を射抜きたい人がいることかもしれない。」

そう言い双子に笑みを向ける。

万「ヒュー。意味深だなー。それって好きな人ってこと？それともかわいさ余って憎さ百倍とかいうんじゃないよね？」

愁「さぁ、どうだろう。」

愁は笑いながら二人のことを頭に浮かべていた。