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Aが清葉弓道場に祖父と訪れてから、Aは自宅の屋敷にある弓道場ではなく、西園寺の元で練習に励んでいた。
祖父の宗一郎がまた仕事の関係で家を留守にすることが増えたからだ。
祖父のことが大好きなAだが、西園寺のことも亡くなった祖母に似てるためか懐いており、今では「西園寺先生」と呼んで慕っている。
そして西園寺の元に師事をしている彼との距離もまた、出会った頃よりずっと縮まっていた。
愁「A、また押す方にばかり力が入ってるよ。」
『うぅ...難しい...愁はほんと綺麗な射型だよね。羨ましい。』
愁「そうかな、僕はAの射型の方が好きだけど。」
年齢が同じということもあり、今では互いの家を行き来する仲だ。
Aにとって藤原愁は初めての友達であり、それは愁にとっても同じことだった。
弓道を通して、2人の中に何か特別な感情が生まれるのも時間の問題だろう。
西園寺は会う度に仲の深まる2人を見て、そう思うのだった。
西「さぁ、2人とも。自分の射を練習するのも大切ですが、弓道では見取り稽古というのも大切ですよ。今から私が1立ちやりますから、後ろで見ててください。」
『「はい!」』
そう言ってAと愁がそれぞれ座るのを確認すると、西園寺は弓と矢を持ち射位に立つ。
西園寺が矢を番え、射法八節を行う。
彼女の射は女性のしなやかさと優雅さを表現した、まさに彼女の人柄そのものだ。
足踏みから始まり胴造り、弓構え、打起こしと進んでいく。
そして引分け、会と続く。
いま道場には、西園寺が弓を引く音と風の音だけがなっている。
カーン
矢が弓から離れたときにだけなる音。
ツルネ。
Aは祖父の力強い射から奏でられるツルネとはまた違った、しかし美しく優しいその音色に何度も心を奪われてきた。
『いつか私も綺麗なツルネをならしたい。いや、鳴らせるようになる!』
Aは目をキラキラさせながら西園寺を見る。
そして横に並んで座っていた愁はそんなAを見て、密かに微笑みを浮かべていた。
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作者名:希子 | 作成日時:2023年2月1日 13時