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あれから4人はそれぞれ決勝トーナメントに向け、練習に励んだ。
そして試合当日。
いつものように試合会場に向かい、いつものように準備をする。
個人戦からスタートする決勝トーナメントは順調に進んでいき、女子はAが、男子は愁が個人優勝をおさめた。
湊「A、愁、優勝おめでとう。2人とも綺麗な射だった。」
『ありがとう。次は湊たちの番だよ。』
湊「うん、今日はなぜか外す気がしないんだ。今ならあのツルネをならせるかもしれないって思うくらいに。」
そう言う湊の目は本気で、いわゆるゾーンに入っている人の目だ。
『なら湊のツルネがきけるのを楽しみにしてる。』
湊「あぁ。」
湊を見送ると、Aは男子団体戦をいい席で見ようと、少し早めに観客席に向かった。
決勝トーナメントが始まると、個人戦とはまた違う空気感になる。
各学校がそれぞれの選抜メンバーを見守っている。
一体感の中にある緊張感。
『見てるこっちまで緊張しちゃいそう。』
「鳴宮先輩と藤原先輩ですもん。優勝しますよ!」
隣に座っていた後輩が、まるで勝つことが当たり前のように答える。
もちろん他のスポーツなどであれば、ある程度の勝利予想はできるかもしれない。
だが今目の前で行われているのは弓道なのだ。
少しの違いが的中に影響してくる。
そんな繊細な競技。
だがそんなAの不安とは裏腹に、湊たちは順調に勝ち進み、優勝まであと一歩のところまできていた。
湊(なんだろう。やっぱり外す気がしない。)
湊は決勝トーナメントでも皆中を続けており、予選からの注目はさらに高まる。
愁「湊、西園寺先生がきてくださっている。」
湊「あぁ。」
係の人から声がかかり、3人は控え室に入る。
そして前の立ちが終わり、自分たちの番がくる。
大前の湊を先頭に、静弥、愁と続く。
左足から入り、右足と揃えて礼をする。
そして射位に立つ。
湊はいつも通り射法八節を行う。
大きく伸びやかに弓を引く。
引分けに入り、会の状態に入る。
カン
『え...湊...?』
聞こえるはずの音が聞こえてこない。
湊の放った矢が的にない。
それどころか安土にすら届いていない。
一体目の前で何が起きたのだろう。
看的所から出るマークは"×"
Aが湊に目を向けると、そこには動揺し、いつもの真っ直ぐな瞳が揺らいでいる湊がいた。
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作者名:希子 | 作成日時:2023年2月1日 13時