あの音をもう一度 (ページ1)

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いつだったか幼い頃、母と聞いた不思議な音。

その音は私を別世界へと連れて行ってくれた。

『お母さま、この音はどこから聞こえてくる音なのですか？』

ある日いつものようにお屋敷で母と過ごしていると、どこからかカーンという音が聞こえてきた。

初めて聞いたその音に私の耳は惹かれ、思わず母の京子に尋ねる。

京「この音はね、"ツルネ"というのよ。」

『つるね...？』

京「そうよ。弓と矢が奏でる音なの。きっとお祖父様が道場で弓を引いていらっしゃるのね。Aもお祖父様を見に行ってみますか？」

『お祖父様が！？うん！行きたい！』

母の提案に祖父のことが大好きだったAは、普段みせる令嬢としての言葉遣いではなく、幼い女の子が見せるそれと同じ反応で答えた。

Aと母の京子が屋敷の隅にある少し古い、でも手入れがされていて綺麗な道場に入る。

そこには髪の毛と同じ白の弓道衣に袴姿で、若い頃は美男子であったであろう彫りの深い顔立ちを持ち、弓と矢をつがえ真剣に的に向かう祖父、宗一郎がいた。

初めて見る祖父の弓を射る姿に息をするのも忘れ、Aはただただその場に立ち尽くし、その目は弓と矢だけに向けられている。

弓が打起こされ、少しずつ祖父の口元まで下ろされる。

そして...

カーン

矢は音を奏でながら弓から離れ、的を貫く。

『お祖父様！！』

矢が的に中った音で我に返ったAは祖父の元に駆け寄る。

『ねぇ！お祖父様！Aもつるねを鳴らしたいです！』

急な孫娘と娘の登場に驚いた祖父の宗一郎だったが、Aの真剣な顔に、目尻の皺をさらに濃くさせながら

宗「ほほぉ、ではAの師匠に私はなるとするかな。」

その日からAは祖父から弓道を学び、ツルネを鳴らすため1日のほとんどを道場で過ごすことになる。