Episode 37 ページ3
｢わざわざ本当にありがとう！｣
｢いいや、礼には及ばないよ｣
目先の道路を見据えたまま、彼は優しい声でそう返した。
ブチャラティとフーゴは、Aの要請を聞くと快く受けいれ、車を出してくれた。
助手席にはフーゴが、後部座席にはキラキラと輝かせた目で景色を捉えるAが乗っている。
｢イタリアに来てから観光とかはしなかったのか？｣
｢うん。ピアノを弾くことしか考えてなくて…｣
ルームミラーに映るブチャラティの瞳に視線を向ける。
｢よく良く考えれば私、今イタリアにいるんだよね。折角国外に居るっていうのに勿体ないかなって今更になって思ったの｣
ブチャラティは｢本当に今更だな｣と少し微笑む。
｢そろそろ目的地ですよ｣
彼の言葉を聞き、Aは窓の外を見る。
車を走らせて数十分。気付けば景色は街中から海原へと姿を変えていた。
ミャアミャアと鳴きながら上空を旋回するウミネコ。太陽光を乱反射させ煌めく海面。その海面と同じテンポで揺れる数台の大きな船。
｢ここがカプリ島行きの高速艇乗り場です｣
＿＿あぁ、私、本当にイタリアに来てるんだぁ。
改めてしみじみと実感させられ、思わず息を吐いた。
『イタリアにいる間は、怪我してもオレのクレイジー・ダイヤモンドじゃ治せねぇからな。無理だけはするなよ！』
『離陸まであと三十分か…演奏もだが、観光も楽しんでこいよ！約束だぜ？』
『折角イタリア語を話せるようにしたんだ。ぼくの良心を無駄にするなよ』
懐かしい友の声が脳内で再生される。
空港まで見届けに来てくれた、三人の声が。
＿＿三人の分まで楽しんでくるよ！
ギュッと拳を握り、ウミネコが影を落とす海を見つめた。
車のエンジンが切られる。それぞれが地に降り立つ。
チケット売り場で三人分のそれを買い、フェリーに乗り込んだ。
｢この船はかなり揺れます。船酔いには気をつけて下さいね｣
｢はーい！｣
片手を上げ、無邪気に返事をするその姿は、まるで横断歩道を渡る小学生のように見えなくもなかった。
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死神(プロフ) - この作品をきっかけにクラシックを聞き始めました！更新停止なのが本当に残念です！いつまでも更新待ってます！！ (2021年11月13日 19時) (
レス) @page7 id: a2f96edbe2 (このIDを非表示/違反報告)
にしき(プロフ) - あーやばい！！続き楽しみです！！同じ事思ってる人が居た！頑張ってください！ (2021年5月5日 9時) (レス) id: fe82cae5ab (このIDを非表示/違反報告)
東雲(プロフ) - ペルラさん» コメントありがとうございます！半年以上放置していたのに…待たせてしまってすみません……今まで以上に不定期更新になりますが、これからもよろしくお願いします！！ (2020年5月18日 0時) (レス) id: 964597b163 (このIDを非表示/違反報告)
東雲(プロフ) - ゆめさん» コメントありがとうございます！！全然返信出来ずすみません… 亀更新ですか、これからもよろしくお願いします！！ (2020年5月18日 0時) (レス) id: 964597b163 (このIDを非表示/違反報告)
ペルラ(プロフ) - 更新お待ちしてました！！ありがとうございます (2020年5月18日 0時) (レス) id: ef496b8ec3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：東雲 | 作成日時：2019年10月25日 0時
