阿部と彼女

新年（1） ページ43

You side




冷たい空気を身にまとい、玄関を開ける。


今年は暖冬らしいが、さすがに夜は冷える。



｢ただいま｣

その声を言い終わる前にリビングの扉が開く。


緑｢おかえり｣


ニコニコと優しそうな笑顔をした青年が出迎えてくれる



緑｢寒かったでしょ｣

｢うん。さすがに夜は冷えるね｣



私のカバンと脱いだアウターを自然な流れで持ってくれる

手洗いうがいをしてリビングに行くと、ラックに並ぶ2つのアウター



帰ってきたらすぐに料理をするのだが、今日はその前に亮平くんの前に立つ



緑｢どうしたの？｣


キョトンと小首を傾げながら、不思議そうな顔でこちらを見る


｢あけましておめでとう｣



やっと言えた。顔を見て。



亮平くんもあっとした顔をして、あけましておめでとうと言う


｢忘れてたでしょ｣

緑｢うん、忘れてた笑｣

｢も〜｣



ごめんごめんと軽く謝ったあと、急に勝ち誇ったかのような顔をして

緑｢今年もよろしくね。｣

と言う。


だから私は…
｢今年こそよろしくね。｣と返すんだ。



緑｢今年こそ？｣

｢うん。デビューして人気出て振られそうだから｣



そう言うと少し口を尖らせて
なんでそんな事言うの？と不満そうに言う



緑｢絶対ない事くらい分かるよね？｣

｢絶対は絶対ないんだよ｣





安心したいんだ。紅白もカウントダウンも年始の特番もしゃべくりも…


テレビを見ない私でさえその活躍は耳に届いているから。



心配なの。不安なの。
そう真っ直ぐに伝えられたらどれほど楽だろう。


でも、言えない。
その活躍を邪魔しそうで。私が重荷になりそうで。



亮平くんが大きくなればなるほど、私の中にどす黒い何かが流れる。

そんな自分が醜く、嫌いになる。


だから、お願いだから離さないで。

新年（2）→←同窓会（2）

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す