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ふくらside
ふ「須貝さん、俺……Aの家も知らなかったんです」
須「え？」
ふ「彼氏、だったのに……今でも思うんです。家を知ってればあの日意地でも会いに行けたのかなって。あの頃の俺は知ろうともしなかったんです。Aのことも、Aの周りのことも」
須「大切なものは失ってから気づくって言うからなぁ……」
項垂れていると頭の上に大きい手がポン、と乗った。
須「まあ忘れろなんて無理だろうけどさ、もう2年でしょ？いつまでもAだけってわけにもいかないんじゃない？」
須貝さんは俺の頭をわしゃわしゃと撫でて「聞いたよ？また告られたんだって？」と言ってきた。
たしかにありがたいことにクイズ番組に呼ばれることも増えた俺はメディア関係の女性に声をかけられることも増えた。
ふ「たしかに俺を好いてくれるのはありがたいですけど、やっぱりAと比べちゃうんです。Aはもっとこうだったな、Aだったらこうしてくれるんだろうなって。それが相手にも失礼になる気がして長くは続かないんですよね」
俺も何度もAのことは忘れようとした。でもその度に、「Aのことを不幸にした俺が、人並みに幸せになって良いものか」と答えのない問いに縛られるのだ。
須「まぁなぁ……実際あの子は超優良物件だったと思うよ。今……なにしてんだろうな」
ふ「忘れなきゃ、いけないんですかね」
須貝さんは俺の言葉に応えるように「んー……」と唸った。
須「忘れるって言ったって無理だろうしさ。AはAで思い出として覚えといて、もっと他に視野を広げてみてもいいんじゃない？」
ふ「……はい」
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作者名：雪音 | 作成日時：2021年1月17日 19時
