34 ページ34
川上side
川「ただいま」
『たくろ、おかえり！』
家に帰ると部屋の中からパタパタと姉さんが走ってきた。
『たくろ、今日ね、シチュー作ったの！』
川「へぇ、すごいな。楽しみ」
あの日以来、姉さんは明るくなった。部屋からも出てくるようになったし家事も積極的にしてくれる。ただちょっと幼児退行気味というか、精神的に幼くなった気がするけれど。
「『いただきます』」
姉さんの作ったシチューは甘くて美味しかった。素直に美味しいと伝えると姉さんはニコニコしながら「よかった！」と笑う。
あの日から姉さんはずっと笑ってる。いつもの困ったような笑いじゃなくて、曇りのない笑顔だ。それが嬉しかった。
川「そうだ姉さん。今日伊沢さんと河村さんと話した。2人とも、姉さんはやってないって言ってくれたよ」
『え……？』
川「それだけやない。姉さんの無実を証明するために沢山証拠集めてくれてた。もうすぐだ……もうすぐ姉さんのこと助けられるから」
『………そっか！ありがとう』
姉さんはぱっと笑って「ごちそうさまでした！」と皿をシンクに持っていく。
『ねえ、拓朗』
川「なに？姉さん」
『私、最近とても調子がいいの。なんでもできる気がする』
川「よかったやん」
『今なら普段できないこともできそうな気がするの。新しいことに挑戦してみてもいいかもね』
川「せやな。何したい？」
『うーん……それはまだ秘密』
川「なんやそれ」
俺が笑えば姉さんもケラケラ笑う。何気ない会話だけど姉さんが前向きになっていってるようで嬉しかった。
川「何始めるにしても、俺は応援するから」
『ありがとう。姉さん頑張るからね』
感謝の言葉と共に向けられた笑顔は今まで見た中で一番綺麗だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 44人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪音 | 作成日時：2021年1月17日 19時
