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川上side
『姉さんのこと、殺して』
川「………は？」
意味がわからなかった。聞き取ることができても脳が反射的に拒否をした。聞きたくないと、聞かなかったことにしてくれと。
『もう………もういやなの。拓朗にもみんなにも迷惑かけて、オフィスにも戻れない。こわいよ、みんなが私を憎んでる』
姉さんから見せられたDMを見て頭に血が昇る。こいつらは、何を知っている？何を知った気になって、姉さんを傷つけている？
『おねがい、ころして。もう、いきていたくない。きえたい。もうやだよ………』
両手で目を覆いながら小さい子供みたいに泣く姉さんを見て、ふと森鴎外の『高瀬舟』を思い出した。
病気に苦しみ、兄の枷になりたくないと自ら命を絶とうとした弟と、上手く死にきれずに苦しむ弟を助ける形で殺した兄_______姉さんが生きていて辛いというのなら、その命を終わらせてあげるのが片割れである俺のできることなのだろうか。
姉さんに馬乗りになって両手を首に当てる。両手の人差し指で姉さんの頸動脈を見つけた。
『拓朗………』
川「………っっ、殺せって言うんなら、そんな辛そうに笑わんといて………っ」
姉さんは笑った。いつもの笑顔で笑った。困ったような、悲しそうな顔だった。
『拓朗………ごめんね、こんなことお願いして……ごめんね…………っ』
姉さんも、もう限界なんだろう。好きなもの全部奪われて、好きな人には軽蔑され……
川「俺が、全部取り返すから」
『え……？』
川「全部奪われたんなら、俺が全部取り返す！姉さんが無実だって証拠見つけ出して、仕事も、ふくらさんからの信頼も取り返す！ギターだって修理に出してるから直る！だから生きるの諦めんとって……」
姉さんにつられて涙を流すと姉さんは目を大きく見開いて驚いた。俺が泣くところなんてそうそう見れないからだろう。
『拓朗、ごめんね』
川「姉さんは悪くない。だから謝らんで」
姉さんの上から退いて手を差し伸べる。姉さんは素直にその手を取って起き上がってくれた。
『……拓朗、私頑張るね』
そう言って姉さんはまた笑った。今度は困ったような笑顔じゃなくて、ふくらさんと笑い合っていた時のようなあったかい笑顔だった。
川「おう、一緒に頑張ろ」
俺の大切な片割れ。憧れの姉さん。この人を守るためならなんだってしよう。たとえ、全ての人を敵に回したとしても。
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作者名：雪音 | 作成日時：2021年1月17日 19時
