25 ページ25
伊沢side
Aがオフィスに来なくなった。
川上は「精神的に不安定で」と言っていて、十中八九あの事件だろうということは想像できた。
念のため言わせてもらうと俺自身、Aは無実だと思っている。しかし会社の代表である俺の発言は重い。あの場で何の証拠もなく感情的な発言をするべきではないと思った。故にAを帰らせたのだがおそらく顔はだいぶ強張っていただろう。
あくまで中立の立場でなんとか真実に辿り着けないかと思っていると、河村さんに声をかけられた。
河「伊沢」
伊「河村さん？どうしました？」
河「あの日の事件、再現して欲しいんだけど」
伊「………はい？」
河村さんの要望に首を傾げると、「Aが犯人だとは思ってない」「ただ自分は現場を見てないから真実に辿り着くことが難しい」ということだった。
河「再現というか、説明して欲しいんだよ。2人の位置関係とか、発言とか、周りに何があったとか」
伊「……わかりました。撮影部屋行きましょうか」
撮影部屋に入る。ソファーは新しく買い替えて、棚の物は山本とこうちゃんが並べ直してくれた。Aのギターは河村さんと川上が修理に出してくれたらしく、そこだけぽっかりと不自然に空間ができていた。
伊「ここにA、そっちに三上さんがいて、2人の間にカッターがあったんです。刃には血がついていて三上さんの腕からも血が出てました。あと、スカートも切られていて」
河「それってこれ？」
河村さんが見せてくれたスマホの画面にはたしかに事件当日三上さんが履いてたスカートが写真に収められていた。
河「仮眠室のゴミ箱にあった。何か証拠になるかなと思って撮ったけど……なんか違和感あるんだよなぁ」
伊「うーん……たしかに」
河「まあ色々考えてみるよ。ありがとね」
河村さんは俺の言ったことを簡単にメモに取って撮影部屋から出て行った。
Aは昔からQuizKnockを愛してくれていた。大好きなこの場所を壊してまで自分のためにあんな事件起こすなんて考えられなかった。
CEOという立場が絡みついて自由に動き回れないのが歯痒い。河村さんが味方についてくれたのは嬉しいがいまだ俺らがアウェー側であるのは否めない。
伊「俺にできることは……」
またあいつが笑ってふくらさんに愛を伝えられる日が来ますように。そう考えながら俺も撮影部屋を後にした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 44人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪音 | 作成日時：2021年1月17日 19時
