ジュウナナワ ページ17
庵崎さんの言葉に理事長は軽く口元を歪めると、会話を再び持ち直す。
「じゃあ、A組には来ないということでいいのかな？」
「はい」
彼女が初めて肯定の言葉を口にしたことに驚いた。
でもそれ以上に、
「(A組には、来ないのか)」
もどかしさもあった。
「……交渉決裂、だね」
呟くように言った理事長の言葉を反芻するように「……決裂」と言う。
全くもって彼女の考えていることが分からないが、E組を何かしらの意図を持って選んでいるのだと確信した僕は少しだけ、安心というか何というか。
そんな感情を抱いた。
これじゃまるで好いているような物言いではあるが彼女の能力に関しては確かに得たいものはある。
残念には、思った。
「あさのくん？」
「！！」
「…………」
「またね。……烏間先生」
「ああ、失礼しました」
「庵崎さん、いつでも待っているからね」
ﾊﾟﾀﾝ
ドクドクと波打つ心臓を肉体越しに握り潰す。
『またね』
あれがどんな意味を孕むのかは別として僕から仕掛ける手間が省けた。
きっと今の胸の高鳴りは、アイツを支配出来る興奮のものだ。
やっぱり僕が支配出来ないものなんてないんだ。
「失礼しました」
理事長室から出た僕は、一気に覚めた脳を隅々まで稼働させて次の手を練ることにした。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「……あ、」
出て来た庵崎さんの言動一つ一つにドキドキする僕たち。
バレていないだろうか。
もしバレても幻滅されないだろうか。
そんなことを考えた時、庵崎さんが勢い良くこっちを向いた。
それはもう、肉体が速度について行けなくて千切れてしまいそうなくらい。
「ひっ！」
誰かが声を小さく洩らす。
そのまま彼女は目の前まで歩いて来て、
ｶﾞｻｯ
「…………」
「おーっ、偶然だね庵崎さん」
「そっ、そうだねー！うちら"偶々"ここら辺散歩しててさー」
中村さん……流石に散歩は無理があるよ。
「渚？」
「えっ、あーうん、散歩してたんだ。暗殺の一環として」
「……そう」
「エッ」
苦しい言い訳を疑いもせずあっさりと信じてしまった姿に呆然としていると、いつの間にか彼女は待たせていたのだろう烏間先生の所まで戻って行っていた。
烏間先生は渋い顔をして僕たちを終始見ていた。
「「「(黙ってて下さい！)」」」
クラス一同、烏間先生に手を合わせた。
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作者名：リン | 作成日時：2018年2月15日 7時
