05 - 麗人 - side of R ページ5
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____ 一年前
美しい
その言葉は、彼女の為にあると思った。
紡がれる音も、ペダルを踏む脚も、
楽譜を覗く目も。
ごくりと唾を飲み込んで、息をするのを忘れるほどに魅入る。
彼女の全てを美しいと思うのと同時に、
おれは彼女が欲しいと思った。
欲しいと、思ってしまった。
ピアノの演奏が終わって、おれは小さく拍手をしながら彼女の前に立った。
彼女は不思議そうな顔をしながら、「なにか用かしら?」と首を傾げる。
そして、「途中で止めてくれて良かったのに、」と。
龍斗「…聴き入ってました。…すごく、美しい」
「そう言って貰えるのは嬉しいわ」
くすりと笑った彼女。
おれに向けられたその笑顔が、
どうしようもなくおれの胸をざわつかせる。
感情に名前がついたのが先か、
それとも行動が先だったかは分からない。
触れたいと思った。
おれのものにしたいと思った。
ただ、おれがこの瞬間、一つの過ちを犯したのは事実だ。
おれは、彼女に、
佐野先生に、
キスをした。
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作者名:にこり。 | 作成日時:2018年3月19日 21時