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ピロピロピロ、と。スマホに設定していたアラームがなった事に気付いて読んでいたサッカーのルール説明本を机に置き、脇に鎮座していたスマホの時間を確認すればもう夕食の時間であった。
基本夕食はどの棟の食堂でとっても良い、とお兄さんは言っていたが。今日は一つの棟しか訪れていないし、何より他の棟に行くと五号棟しかないとうっかり漏らしてしまいそうで怖いので、彼等のいる食堂へ行こうかな。
今思い返せば、自己紹介すらしていないチームもあったし。
電源を落としたスマホの暗い画面で乱れた前髪を整えた後、家から持って来ていた洋服の中で一番お気に入りのカーディガンを引っ張り出してきて上に羽織る。言われた通りにカードキーとスタンガンを持って、準備万端といったところだろうか。
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言い訳するならば、一面似通った構造をしている建物側が悪いのだと私は言う。食堂に入れば、中に居る彼等に今日出会った子が一人たりとも居ない事を視認して、案の定別の棟に迷い込んでいたらしい事を悟った。
私の部屋は基本どの棟であってもある程度移動しやすい様になっているが、そのせいで通路が複雑なのだ。恐らく、何処かの道を間違えたのだろう。
正直、初対面なのに食事だけは共にするだなんて居心地の悪い事は他には無いと思わざるを得ない。今すぐにでも道を引き戻したい気持ちが山々だが、私が入って来た時点で食堂がライブ開始一分前レベルまでざわつき始めて期待の視線が凄いことになってしまっている。
此処で食べるか、と観念して私も食膳を受け取りに列に並ぼうとすれば一気に目の前が開ける。つまり、並んでいた子達が皆道を開けてしまったのだ。
『あの、私も並ぶから気にしなくても』
「こっ、声まで綺麗ッ!?」
「喋ったぞ……二次元じゃなかった」
『……失礼しますね』
譲られなくても大丈夫なのに、と真っ先に横にはけた子に声をかければ驚愕の表情でその場に崩れ落ちる。その様子を見て、私が現実に居る事を漸く理解した周りの人達が騒めきだす。どういう事なの。
取り敢えず早く食事を取りに行こうと決意した。割り込みの様で心が痛いが、早く逃げたい。
『どれにしようかな………あ、オムライス』
皆の番号の代わりとなるコードを翳して、画面に浮かんだメニューを物色する。何となく気分なオムライスを押そうと指を伸ばした瞬間、後ろから伸びた大きな手がその横をタップしてしまった。
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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時