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『御影君、ばぁ』
「………うぉっ」
『本当に上の空だねぇ』
「なっ、あ、……A?」



探そうとした矢先、偶然にも御影君の姿を見つけたので駆け寄って顔を覗き込んでみれば、数秒無言の彼と見つめあったかと思えば途端に彼は顔を真っ赤にして後ずさっていく。過去一番で長く見つめあっていた気がする。

壁に背中を貼り付けるようにして飛び退いた御影君が、顔を真っ赤にして未だ狼狽える様子を見ながら『白湯でもいる?』と首を傾げて問えば、彼は「何で白湯だよ」と怪訝そうにしながらも首を緩く横に振った。残念だ、丁度作ろうと思っていたのに。



『最近、眠れてないでしょう? 出来る事があるならしてあげようかと思って………私は寝る前に白湯飲むの好きなの』
「ぁ〜………いや、はぁ。まじ、気にしなくていいから」
『今日は寝れそう?』
「まあまあ」
『添い寝しよっか? 脳に優しい声ってよく言われるよ』
「ばっ」



歯切れの悪い御影君の返答から察するに、今日も以前程寝る事は出来なさそうだ。御影君と言えば爽やか人気者というイメージが強かったものだから、こうも陰鬱とした様子を見ているとどうにも違和感が勝ってしまう。何を抱え込んでるのかいまいちよく分からないが、男同士の友情というやつなのだろうか。

私の冗談にも反応する気力が無いかと思えば、そこは案外ある様でワナワナと震えながら顔を真っ赤にしている彼にくすくすと笑いが零れてしまう。それなりに病んでいるが、それなりに元気な様だ。



「………ていうか、Aは何でそんな俺の事気にしてんの。贔屓にならねーの?」
『正直贔屓がちだとは思っているんだけど……私が把握してる中で、御影君が一番不安定になっているっていうのもあるよ』
「…………え、まじで贔屓?」
『かもね。勿論、不当な手助けはしないけど心配だから』



贔屓かと問われれば、胸を張って否定出来ない自分に呆れ笑いさえ出そうになる。度を超えて贔屓なんてすれば、お兄さんはきっと一ミリの容赦もくれずに私を追い出す事だろう。別に家に帰れば良いだけの話なのでそれでも困りはしないのだが。

とはいえ、私なりにラインは気をつけているつもりなのだ。が、やっぱり御影君とは交流が多かった為に色々と気付きやすいのもある。



「贔屓………なんか、まるで俺が特別みたいだよな、それ」



細く整った指に覆われた口元が微かに歪んでいるのが見えたが、今だけは触れないでおこう。何とも嬉しそうで良かったが。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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